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【KEIO Report】「ヘルスケア・イノベーション薬学講座」の開設

2024/12/25

シンポジウム登壇者と筆者らの記念撮影 (2024年6月26日 芝共立キャンパス)
  • 古堅 彩子(ふるげん あやこ)

    慶應義塾大学薬学部准教授(有期)
  • 堀 里子(ほり さとこ)

    慶應義塾大学薬学部教授
  • 三澤 日出巳(みさわ ひでみ)

    慶應義塾大学大学院薬学研究科委員長

慶應義塾大学薬学部では、佐藤製薬株式会社からの寄附を受け、2024年4月にヘルスケア・イノベーション薬学講座を開設しました。この講座名は、「革新的な薬学研究を通じてヘルスケア分野の課題を解決し、健康社会の実現を目指す」ことを目的として名付けられました。薬学部の他の講座(研究室)と同じ立ち位置で、卒業研究や講義・実習など、教育と研究の両者を担当する「寄附研究講座」は薬学部では初のかたちとなります。

近年、予防医療やセルフメディケーションの重要性が高まっています。OTC医薬品(処方箋なしで買える医薬品)の適切な使用の推進や、生活者視点で健康を支えるためのエビデンスの構築、ヘルスリテラシーの向上のための啓発、その仕組み・ツールの開発と効果的な活用が望まれます。ヘルスケア・イノベーション薬学講座では、以下の項目を中心にヘルスケアに関わる研究・教育活動を展開します。また、科学的・社会的要請によるセルフケア推進のための、新たな研究課題にも柔軟に対応します。

・セルフメディケーション、セルフケア、OTC医薬品などに関する科学的・社会的な課題解決
・生活者視点で健康を支える革新的なヘルスケアソリューションの創出
・右記の実現に向けた人材育成と消費者啓発
・生活者のOTC医薬品に関するリテラシー向上のための情報提供

研究手法としては、目的に応じて、医療ビッグデータ解析や消費者・患者パネル調査等のデータ駆動型アプローチを活用しつつ、実験室でのラボワークも積極的に展開していきます。これにより、多角的な視点から実証的なエビデンスを構築し、ヘルスケアに関する知見を創出します。また、生活者のリテラシー向上を目的として、一般の方が理解しやすいセルフケア・セルフメディケーションに関する書籍等の作成も計画しています。なお、当研究分野は、薬学のみならず、生活習慣やヘルスケア促進のための体制構築など、多岐にわたる研究領域と密接に関連しています。そのため、各分野との連携は不可欠です。社会や医療への貢献を目指し、他学部との協力や医療現場(薬局・病院等)、さらには他の研究機関との協働を通じて、シナジー効果を最大限に活用し、研究を推進したいと考えます。

本講座は、主任の有田誠薬学部長、兼担教授の三澤日出巳教授および堀里子教授、古堅彩子准教授、山神彰特任助教の体制で研究活動を進めています。また、人材育成の一環として、学部学生および大学院生の受け入れを行っており、本年9月には学部学生4名が配属され、さらに2025年4月からは博士課程の大学院生11名が配属される予定です。

当講座の開設を記念して、本年6月に芝共立キャンパス中講堂において開設記念キックオフシンポジウムを開催し、薬学部や医学部の学生、教員、関連企業の方々が多数参加しました。当日は、有田薬学部長の開会挨拶、座長の三澤薬学研究科委員長、堀薬学部教授からの趣旨説明により幕を開け、続いて、5名の登壇者が、以下のテーマで講演を行いました。

  1. 1. 「薬剤師と地域薬局の新たな役割:ヘルスケア推進に向けた今後の展望と期待」/太田美紀氏(独立行政法人医薬品医療機器総合機構安全性情報・企画管理部部長)
  2. 2. 「近未来の予防医療を切り拓く:プログラム医療機器開発の最前線から」/岸本泰士郎 医学部特任教授(医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座)
  3. 3. 「ヘルスケアDX:デジタル変革における企業のトレンド」/三友周太氏(シミックホールディングス株式会社Consulting And Navigation(CAN) Unit Principal)
  4. 4. 「薬局における口腔セルフケアのサポートと今後の展望」/山浦克典 薬学部教授(薬学部医療薬学・社会連携センター社会薬学部門・薬学部附属薬局長)
  5. 5. 「ヘルスケア・イノベーション薬学研究の展望」/古堅彩子 薬学部准教授(薬学部ヘルスケア・イノベーション薬学講座)

太田氏からは、行政の視点から、ヘルスケアを推進するための現在の政策や、薬剤師や地域薬局への期待についてご提言頂きました。岸本特任教授からは、医学研究者の立場から、プログラム医療機器開発を通じた最新の研究をご紹介頂きました。三友氏からは、ヘルスケアサービスを提供する企業の最新の情報についてご講演頂きました。また、山浦教授からは、慶應義塾大学薬局における口腔セルフケアに関する最新の取り組みが紹介され、古堅准教授からは新講座の概要と今後の研究計画が発表されました。

参加者は熱心に耳を傾け、活発な質疑応答が交わされ、三澤薬学研究科委員長からの閉会挨拶で幕を閉じました。本シンポジウムは、今後の研究活動への期待を大いに高めるものになりました。

シンポジウム終了後は、東京タワーを望む談話室に会場を移して、祝賀会を挙行しました。佐藤製薬株式会社・佐藤誠一代表取締役社長からご祝辞を頂き、続いて北川雄光慶應義塾常任理事、そして当講座の礎を築いた金澤秀子元薬学部長(現:慶應義塾大学名誉教授)の挨拶がありました。シンポジウム登壇者、佐藤製薬株式会社をはじめとする関連企業の方々、薬学部教員等が多数参加し、活発な情報交換の場となりました。

こうして「ヘルスケア・イノベーション薬学講座」は、新たな一歩を踏み出しました。今後も、学内外の協力を深め、ヘルスケア分野の課題解決と新たな価値創出に向けて邁進していきます。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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