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【From Keio Museums】石膏の冒険──風船と自立

2024/12/06

冨井大裕《風船と自立#1》2024年
photo: Masaru Yanagiba

小さな展示室は白い仕切りで2つに分けられている。仕切りと壁の間から白い台座に載った白い彫刻が垣間見える。すくっと立ったその姿勢は立ち上がる台座の方向性そのまま上に伸びていく。よく見るとちょっと左に傾いで表情がある。足元に球体、棒状のパーツが細いY字を逆にした様に立つ。棒状の部分はざらざらと凸凹して、接合部分が少し丸みを帯びて太い。棒のてっぺんの僅かなゆがみはたちまち人の頭を連想させ、不思議な玉を足元に携えて脚を開いて立つ細い人体に見えてくる。人はなぜ、こういとも簡単に人体をレファレンスしてしまうのだろう。ここでは重りのように足元にいるが、球体と棒という組み合わせにはいつもその誘惑が潜んでもいる。しかし、台座の周りを1周すると、人と見えたものが怪しくなり、違うものに見えたり、複雑に形も表情も変化する。そこでは台座の上の影も一役かっている。

石膏の球と棒で作られたシリーズには「風船と自立」のタイトルが与えられた。この作品はその第1号である。20余り作られ、そのうち4点が同じ空間に居る。どれも球形と棒から成り立ち、必ず立っている。それは辛くも浮いているという立ち方から、屹立するように立つものまで四者四様、いや制作された全てで二十余者二十余様である。冨井大裕(もとひろ)は多種多様な既成品を並べたり、重ねたりするシンプルな手法によって構成する作品で知られる。そこでは既成品は日常の役割や機能から解放されて、ただモノそのものとしてそこに存在し、作品を構成する。形は作るのではなく見出されている。「風船と自立」は既成品ではない。石膏の球体と棒、しかし、そこでも重要なのは組み合わせと自立するという条件とルールである。石膏を用いて造形することはしない。パーツが組み合わさり、バランスをとって出てきた形の中で成り立つ。それを作品とする。

こうして現れ出た4体をぜひ、味わって欲しい。そして、仕切りの向こう側にはある意味で冨井らしい既成品を用いた作品が控えている。同じ作家が創出する2つの世界──異なって見えながら、1人の作家から発せられた「モノコトの姿」が展開している展覧会(「SHOW-CASE PROJECT Extra-1 冨井大裕 モノコトの姿」展、2024年10月21日~2025年1月24日)を楽しんでください。

(慶應義塾大学アート・センター教授 渡部葉子)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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