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【KEIO Report】ガーナでの野球による教育とその効果──慶大野球部初のアフリカ遠征
2024/11/18
2024年8月、パリにてオリンピックが行われている中、大学野球部の現役・OB10名がガーナの小中学生・コーチ総勢140名と共に野球による教育・研究活動を行った。
遡ること3年前、JICA(国際協力機構)にて約30年間アフリカで野球を広める活動をしてきた野球部OBの友成晋也さん(1988卒)から興味深いお話を聞かせていただく機会があり、以前テレビ番組でガーナ野球が取り上げられ、所ジョージさんがチームのために作ったテーマソングをふと思い出した。その頃の詳しい歴史は友成さんが書かれた『アフリカと白球』に記されている。
友成さんは2019年に一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)を設立し、規律・尊重・正義を学ぶことができる日本型野球教育としてのベースボーラーシップⓇ(野球+スポーツマンシップの造語)を元に、アフリカ55カ国でその活動を広めるためのアフリカ55甲子園プロジェクトを進めている。
これまでの活動の中で、ベースボーラーシップを身につけた子供が時間をきちんと守るようになったり、挨拶ができるようになったり、さらには学校の勉強もできるようになったという現地の先生方の話が印象的であった。これはいわゆる「非認知スキル」と言われ、私達のラボで行っている研究課題とも関連するものであった。
今回、野球部員がこの活動に参加することにより、半学半教として新たな学びの機会を得ることに加え、野球を通じた教育がどのような影響をもたらすのか、心理的な調査から検証することも目指した。JICAとの連携に際しては、コロナの影響がまだ残っていたことや、塾内での受け入れ態勢が整わないこともあり、2年近く時間を要してしまったが、2023年7月25日、JICAとSFC研究所ベースボールラボで海外協力隊派遣のための連携覚書を締結することができた。
第1回ガーナ派遣メンバーは、現役学生の小川尚人君(SDM修1)、工藤拓人君(教職履修生)、萩原大雅君(商4)、岡田健人君(経4)、石河琉我君(環3)、鎌田正藏君(文3)、髙橋秀彰君(法3)、峯岸里帆さん(政3)、内藤茉子さん(経2)と、OBの石橋賢一さん(1993卒)の10名がJICA海外協力隊員として選ばれ、私と友成隼也君(総3)(友成さんの息子さんでもある)がラボの調査研究として同行した。日本から19時間のフライト直後には、首都アクラの空港にてガーナ国営テレビ局の取材を受けた。またJICA事務所の方々をはじめ、ガーナ日本大使、青少年スポーツ省大臣、国立スポーツ局関係者などへ挨拶に伺い、記者会見なども立て続けに行われ、現地の方々の期待の大きさを感じた。特に塾員でもある望月寿信ガーナ大使のお部屋には「自我作古」の書が掲げられており、遠くこの地でも慶應の精神が息づいていることに背中を押される思いであった。
現地ではガーナ野球ソフトボール連盟に所属するコーチ達と連携し、前半はベースボーラーシップⓇをどのような形で指導するのが良いかを考えるためのワークショップなどを行った。英語でしゃべらないといけないこともあり、学生達は当初控えめな印象であったが、友成さんの強力なリーダーシップとガーナ人コーチの熱い気持ちに後押しされ、最後は自分達らしい素晴らしいプレゼンをしてくれた。特に「なぜ試合前に礼や挨拶をしなければならないのか」「なぜ相手を思ってキャッチボールをしなければならないのか」「なぜ1人1人順番に打席があるのか」など、普段当たり前のように行っている所作の中にある規律・尊重・正義の意味を改めて発見し、その意義を伝えようとしている姿が素晴らしかった。
その後、ドドア、ケープコースト、テマ、コフォリディアの地方4カ所に分かれ、現地の子供達に対して実践的な指導を行った。特にトロトロと呼ばれる乗り合いバンにぎゅうぎゅう詰めとなり、舗装もされていない凸凹道を1時間近く移動したり、当たり前のように水しか出ないシャワーのホテルに泊まったり、石が散乱し雑草も多いグラウンドだったりと、日本では体験することができない環境もあったが、学生達はそんなリアルな現場も大いに楽しんでいた。ほぼ初めてボールを触る子供たちもいたり、元々の身体能力から驚くほど成長した子供もいたりなど、実際に現地で野球することでしか味わえない体験からも、真の意味での多様性を理解することができたようである。
最後には首都アクラにて第1回ガーナ甲子園大会が開催された。ここにはクラウドファンディングにより再建築された「甲子園」グラウンドがある。各地から選抜された10数名のガーナ人選手・コーチが集まり、ティーボールによるトーナメントが行われた。試合中には相手を尊重し、仲間を信頼し、皆を鼓舞するようなベースボーラーシップⓇが随所に見られていた。特に惜しくも負けてしまった選手が大きく泣き崩れる姿を見て、学生達も深く感動していた。
日本で野球をしている時には気づき難いが、普段の活動の中にも実は深い教育的な意味があり、それを実践することで非認知スキルが自然と身につけられ、人間形成にも良い影響を与えているということを認識できたことは大変意義深い。今後はそれを検証するための研究をさらに深めていきたい。最後にアフリカ研究を専門とする國枝美佳さんをはじめ、JICA、J-ABS等本活動を支えていただいた関係者の皆さんに深く感謝申し上げます。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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加藤 貴昭(かとう たかあき)