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【社中交歓】月

2024/07/29

月島で開業して

  • 葛岡 真彦(くずおか まさひこ)

    月島タワークリニック院長・1983医

月島で開業してはや20年が経ちました。外科の勤務医だった私は40半ばを過ぎ、今後は癌を治療する立場から少しでも多くの癌患者を発見する立場に回ろうという思いでした。開業して最初の年は丁度3年に1度の住吉神社例祭の年で、真夏の猛暑の中で佃と月島の町内会ごとに神輿を多くの住人が掛け声とともに担いで練り歩き、周囲の人がそこに水をかけて励ますという壮大なものでした。おかげで祭りの翌日の月曜は、開業間もなく普段閑散としていた当院も祭りで怪我した人や体調を崩した人で賑やかになりました。

月島で有名なものにもんじゃ焼きがありますが、私は年1回ほどしか行きません。店により行列人数の多寡がありますが、それほどの差があるのかどうか? 私は自分自身で調理するよりは店員が手早く調理してくれる店のほうが好きです。今、月島では再開発で高層マンションが次々と建設されていますが、一方で古い町並みが徐々に失われていくのは寂しい限りです。

月光の夜に

  • 礒貝 日月(いそがい ひづき)

    株式会社清水弘文堂書房社主、県立広島大学大学院経営管理研究科講師・2004総、07政メ修

学生時代、カナダ北極圏のヌナブト準州へ足繁く通った。当時、文化人類学を志していた私は人口300人ほどの村に滞在し、狩猟採集民であるイヌイットの友人たちと多くの時間を過ごした。

ある晩夏の日、滞在先の家族と狩猟に出かけた。白夜とまではいかないが、極北の夏は日が長く、朝から晩まで小型ボートでシロイルカやアザラシを追いかける。地平線の果てのような透き通った世界で、太陽が水平に隠れ、月光が波間を照らしはじめる。

厳しい自然環境と対峙してきた先住民イヌイットは独自の自然観を育んできた。動物や海、太陽などにまつわる神話が多数存在し、語り継がれてきた。月といえば、イガルク(igaluk)という神がおり、狩猟の帰りに先祖から聞いた物語を話してくれた。

そんな話を聞きながら、私も自身の名前の由来を話す。太陽と月にちなんだ名前で、彼らの伝承と相通ずるものがあり、ありがたいことに名前だけで親しみを持ち受け入れてくれる人も数多く、名付けてくれた両親に感謝したものだ。

理想を追い続ける姿勢

  • 牧野 悟(まきの さとる)

    ERC Institute 代表・2009経

皆さまはシンガポールの国旗とデザインに込められた意味をご存知でしょうか。

赤は普遍的な親愛と平等を、白は永遠の清澄と高潔を象徴しており、5つの星は民主主義、平和、進歩、正義、平等という理想を描いています。

月は過去、現在、未来をつなぐシンボルとして表現されています。暗闇(新月)から、次第に光を増し満月に至る。これと同様、シンガポールは独立以降、急速な経済成長をとげましたが、更なる発展と、5つの理想を達成するために満月を目指して日々進歩を続けています。

私はこの発想がとても好きです。目標や理想を持ち続ける事が日々の生活に熱量を与え、都度起こる困難や失敗について理想を叶えるための貴重な経験としてポジティブに捉える事ができるからです。

言うは易しです。実際私は心が折れて数日引き籠る事もありますが、目標と理想を都度思い出し、何とか楽しくやって来ましたし、これからもやっていけると信じています。

ベートーヴェン、楽器を前に月下推敲?

  • 丸山 瑶子(まるやま ようこ)

    東京藝術大学大学院音楽研究科専門研究員・2009文、2011文修

キーワードは「月」、ベートーヴェンの《月光》で一筆との依頼にううむと唸る。これは文筆家レルシュタープが作品の第1楽章を月光射すルツェルン湖と結びつけたため流布した通称で、作曲家とは無関係なのだ。猛々しい終楽章からは、白銀の月が溢(こぼ)す光の粒よりむしろ地を撃つ豪雨が聞こえないか。

だが月面着陸という科学的偉業ならベートーヴェンも飛びつきそうだ。何せ彼からは未知の技術に少年の如く目を輝かせる姿も想像されるので。

《月光》成立時のヴィーンのピアノは一般的にペダルが無く、膝レバーがペダルの役割を果たした。その証拠に《月光》には「ペダル」とは指示されない。その後、作曲家はペダル付きで豊かな響きと幅広い強弱変化が可能なパリのエラール社のピアノを入手。そして生まれた《ヴァルトシュタイン》と《熱情》ソナタにはこれでもかというペダル指示と迫力ある音響。デバイス新機種に飛びつく男である。

ベートーヴェンさん、月世界旅行、どうです? 宇宙で音楽が聞こえるとしたらどんな曲を作ります?

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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