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【From Keio Museums】改めて、空気──「空気の芸術」と《粉を挽く》

2024/07/25

三原聡一郎《粉を挽く》
2024年(写真は部分)

現在、慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)では「三原聡一郎 レシピ: 空気の芸術」展を開催している(8月3日まで)。三原聡一郎は、オープンなテクノロジーを介しながら、音、泡、放射線、虹、微生物、苔、気流、土、水、そして電子といった物理現象や自然のシステムを芸術へとよみかえ、作品を展開しているアーティストである。彼は自身の作品を、空気の性質である「振動・呼吸・粒子」に分類し、その総体を「空気の芸術」と呼んでいる。また、作品の概要や扱う現象、機能ダイアグラム、回路図、構成リストとパーツ、制作手順といった情報をのこすことで、作家の生前意思を示し、作品の根幹に関わる想像力を他者と共有する仕組みとして「レシピ」制作を構想してきた。本展では、このレシピの第1版が公開され、作品のあり方にもアップデートや循環を見出す作家の思考に触れるとともに、「空気の芸術」をまとまった形で展示する。

新作の《粉を挽く》は、「粒子」カテゴリーの作品である。と同時に、レシピを制作するための重要な道具でもある。コロナ禍のマスク生活において、「香り」は空気中を漂う「粒子」である点を再認識した三原は、以降、物質の粉体化を進めていく。ボールミルやコーヒーミル、石臼など、物質の大きさや硬度に応じた粉砕を可能にする既存の道具をハックし、粉を挽くための独自の自動化装置を組み上げた。実はレシピは、その記述対象である作品を構成するパーツを粉にしてつくられたDIYインクで刷られており、文字通り「作品の色」を示している。部屋全体がインスタレーションである《粉を挽く》は、空気状態を可視的に示す温湿度計、香りのパフォーマンス用の小型ミルと粉砕前の素材、そしてインク顔料とその細かな粉体化を実現する自作装置という構成により、粉と空気をめぐる作家の実践の気配を漂わせている。

この他にも、建物の構造を活かして館内1~3階の各所で作品が展開する。作品と環境との関係、そこにあるシステムの可視化・可聴化は、刻一刻と移り変わり同じ姿をとどめない。ぜひ二巡三巡しながら、夏のKeMCoでさまざまな空気を感じていただきたい。

(慶應義塾ミュージアム・コモンズ所員 長谷川紫穂)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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