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【社中交歓】若

2024/05/29

首掛け松の伝説

  • 土井 宣博(どい のぶひろ)

    株式会社雅心苑代表取締役、沼津三田会幹事長・1984政

阿野全成(あのぜんじょう)(幼名:今若丸)は源頼朝の異母弟で、弟に義経がいる。平治の乱の後、醍醐寺に出家させられていたが、頼朝が挙兵すると寺を抜け出して参じた。

北条政子の妹である阿波局(あわのつぼね)と結婚し、頼朝を助けた功績により、駿河国阿野庄(するがのくにあのしょう)を与えられた。現在の沼津市の西部から富士市にかけての地域である。阿野姓を名乗り、その地に館を構えた。そこに先祖供養のため建立したのが今に繋がる大泉寺である。義経が奥州に逃れる際に立ち寄ったとも伝わる。

大泉寺にある全成の墓には、首だけが埋葬されている。彼も幕府に叛いた疑いで常陸国(ひたちのくに)に流され、下野国(しもつけのくに)で首を切られた。その時に首だけが一夜のうちに、息子時元のいる大泉寺に飛んできて松の枝にかかったという、首掛け松の伝説がある。その時元も後に謀反の末北条家に敗れ、一族は滅ぼされた。

大泉寺の面している愛鷹(あしたか)山麓の根方街道は、東海道が整備されるまでは主要な街道だった。近くには、戦国時代を拓いた北条早雲(彼は北条を名乗ったことはないが)の旗揚げの地である興国寺(こうこくじ)城がある。

若者言葉、いつか来た道

  • 尾谷 昌則(おだに まさのり)

    法政大学文学部教授・1996文

不惑の40歳を経て、知天命の50歳になった。立派なオッサンだ。そんな私が、先日「若者言葉を研究している」と自己紹介したところ、ある大先輩から「最近の若者は、変な言葉を使う。正しい日本語を使うよう、学者としてビシッと言ってくれ」と言われた。ここで私はガッカリした。あなたも昔は若者だったはずなのに、と。

世の中は「需要と供給」で成り立っており、それは言葉も例外ではない。若者の間で新しい言葉が生まれるのも、きっとそこに需要があるからだ。その需要を冷静に分析するのではなく、自分とは異なるというだけで嫌悪するのは、新しいものを生み出す気概や好奇心を失っている証拠ではないか。

『論語』によれば、60歳は「耳順(じじゅん)」といい、他人の意見に反発を感じず、素直に耳を傾けられるようになる境地だという。若者言葉にも耳を傾け、自分にもそんな若々しい時代があったことを思い出しながら、その使用動機を冷静に分析できる60歳になりたいものである。

若草への憧れ

  • 細野 香里(ほその かおり)

    慶應義塾大学文学部助教

ルイザ・メイ・オルコットの『若草物語』(1868年)は、アメリカのニューイングランド地方で姉妹と過ごした著者の少女時代に取材した半自伝的作品である。Little Womenという原題は、進歩的な教育者であったルイザの父エイモス・ブロンソンが、自身と対等の一個人とみなす意味を込めて娘たちに使っていた呼称にちなんでいる。1906年の北田秋圃(きただしゅうほ)の抄訳により日本に初めて紹介された際には、原題に忠実に『小婦人』という題がつけられていた。『若草物語』という題名が使われたのは1934年の矢田津世子訳においてであり、同時期に日本で公開された映画版の監修を手掛けた吉屋信子の考案とする説が有力である。以後、少女の成長を描く作品のみずみずしさを端的に表したこの邦題が定着してゆく。原題とは無縁であった“若草”という言葉は、いつしかその1単語だけで、一部の読書家たちの胸に刻まれ、オルコットの描く作品世界への憧れをただちに呼び起こす魔法の言葉となった。かくいう私も、若草への憧れを少女時代に植え込まれた1人である。

皮膚の若返りのために

  • 貴志 和生(きし かずお)

    慶應義塾大学医学部形成外科学教室教授

不老不死は人類の夢である。近年、年老いたマウスが若返ったという論文が一流誌に登場し、若返り研究の勢いが凄まじい。キーワードはSASPと呼ばれる老化した細胞が死なないで組織に残り、持続的な炎症を引き起こす現象で、これを老化の原因とする説である。SASP状態の細胞を取り除くことで若返りを目指す技術は、米国を中心にすでに多くのベンチャー企業で扱われ、多額の資金がつぎ込まれているので、あながち荒唐無稽な話ではない。本塾でも多くの研究者が携わっている。ただ、未だに不老不死のマウスができたという報告はなく、まだまだ“夢”の状態である。老化した皮膚を若返ったように見せるためには、たるみ、皺など真皮とその下の線維組織のゆるみを引き締める方法と、しみ、くすみなど表皮の特徴を改善する方法があり、これらは、すでに手術や医療機器で様々な治療が行われている。どの方法が安全で優れているかは、ネットの情報だけでは判断が難しいので、信頼できる形成外科医や皮膚科医に相談するべきである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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