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【KEIO Report】未来のコモンセンスをつくる研究大学へ向けて

2024/03/15

  • 天谷 雅行(あまがい まさゆき)

    慶應義塾常任理事

この度、文部科学省で公募された「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に、慶應義塾大学の提案が採択されました。69校の応募があり、12校が採択され、私立大学では、沖縄科学技術大学院大学(OIST)と慶應義塾の2校のみでした。本事業は、10兆円規模の大学ファンドにより支援される国際卓越研究大学への支援と並行して実施され、日本の研究力の向上を図る起爆剤となることが期待されています。通常の「研究費をもらって研究を推進する」ためのものではなく、「世界的な研究大学となるための、組織としての機能を強化する」という大学改革のための事業です。

慶應義塾は、今までも様々な拠点事業に採択され、発展してきました。研究大学強化促進事業(2013-2022)、スーパーグローバル大学創成支援事業(2014-2023)、オープンイノベーション機構整備事業(2018-2022)などです。さらに、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に本田賢也教授を代表とする「ヒト生物学-微生物叢-量子計算研究センター(Bio2Q)」が私立大学で初めて2022年に採択されました。WPIは、高度に国際化された研究環境と世界トップレベルの研究水準を誇る国際研究拠点を形成する事業です。また、共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)に、2021年に中村雅也教授を代表とする都市型ヘルスコモンズ共創拠点、2023年に田中浩也教授の提案する共生アップサイクル社会共創拠点が、採択されました。COI-NEXT は、大学が中心となって未来のありたい社会像を策定し、産学官共創拠点の形成を目指す事業です。これら事業での実績が、J-PEAKS の採択につながりました。本事業では、何を行うのでしょうか(図)。本事業では、既に存在する特色のある研究拠点をさらに発展させるとともに、慶應義塾の多様な研究者のショーケースを新たな形で構築し、塾内外での研究者交流を促し、人文・社会科学を軸とした拠点も含め、新たな拠点を創出します。研究拠点がそれぞれ成長して行くとともに、新たな研究領域を創成し、研究領域、拠点間の融合を推進し、社会実装へつなげます。本事業の支援を通して、拠点の創出、成長の土台となる土壌(システム)を肥沃なものとします。土壌の肥沃化には、研究連携推進本部、グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)、イノベーション推進本部が三位一体となって、牽引役として活動します。

図 J-PEAKS の概容と研究大学として目指すべき姿

本事業に先立ち文部科学省で公募された「地域中核・特色ある研究大学の連携による産学官連携・共同研究の施設整備事業」においても、慶應義塾は2023年4月に採択を受け、矢上キャンパスにオープンイノベーション施設(YIL)、信濃町キャンパスにインキュベーション施設(CRIK)の整備が進んでいます。これらの施設において、研究成果を基にした国内外の社会課題解決やスタートアップを含めた新産業創出などのイノベーションに結び付け、社会実装に向けて大学の機能強化が図られます。また、本事業を通して、沖縄科学技術大学院大学(OIST)と強い連携が構築されます。

では、本事業を通して、私達はどのような研究大学を目指すのでしょうか(図)。人々の共通認識であるコモンセンスは時代とともに変遷してきています。今まで非常識であったことが、科学技術の進歩とともに常識となることも珍しくありません。現在、過去に例をみない速度で、コモンセンスが変化し続けています。人工知能(AI)や再生医療などの先端科学技術が台頭し、人間と機械(AI)、人間と動物、自己と他者、真実と虚偽など、様々な「境界」の融解が進んでいます。「境」融解がさらに加速する次の10年、慶應義塾は、ライフサイエンス領域等の複数の先鋭的研究で力強く世界をリードしてきたこれまでの実績をさらに圧倒的な高みに至らせつつ、人々が心から受容できる倫理と価値を創出し、従来の「研究成果の社会実装」の概念をも新たなものとしていきます。「学問の社会実装」とは、学問で社会を豊かにし、社会からの学問への信頼を高めることでなければなりません。そして、「起業家・実業家の創生」を通して、日本や世界の経済的発展を促進し、豊かで幸せな社会を実現して行くための先導者となります。慶應義塾は、「社会実装のプロフェッショナル集団」として、「もの」をつくるだけでなく、「こと」を起こし、人文・社会科学と自然科学の真の融合を通して、未来のコモンセンスをつくる研究大学に向けて発展していきます。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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