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【From Keio Museums】エフェメラが構築する在りし日の姿──南画廊の資料体

2024/03/12

南画廊で刊行されたリーフレット/カタログと封筒(南画廊発行、1956-1979年刊行)
撮影:村松桂(カロワークス)
所蔵:慶應義塾大学アート・センター
(図版中下段・左から2番目資料は、特定非営利活動法人 Japan Cultural Research Institute所蔵)

慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)では、3月18日より「エフェメラ: 印刷物と表現」展を開催する(5月10日まで)。アーカイヴや図書室といった学内外の文化機関から、様々な芸術の形態が展開した戦後美術の印刷物エフェメラ(チラシ、ポスター、案内はがき等)を紹介する。

そのひとつが、慶應義塾大学アート・センター所蔵の「南画廊」に関するエフェメラである。南画廊は1956年に志水楠男によって設立され、国内若手作家を発掘すると同時に、戦後の早い段階で国外作家を紹介するなど、当時のアートシーンを牽引する画廊のひとつであった。閉廊まで約200件の展覧会を開催し、そのほぼすべてで案内はがき、リーフレット、カタログといった頒布印刷物がつくられた。それらは各作家と作品に合わせたデザインながらも、判型やロゴタイプなどを揃えていくことで画廊として統一したスタイルを示しており、展覧会にまつわる印刷物に対して早くから意識的な画廊であったことが知られる。

所蔵先のアート・センターは、日本の戦後芸術における一大アーカイヴとして国内外に知られ、土方巽や瀧口修造にまつわる資料を所管している。個人やグループに紐づく個々のコレクションのアイテムを横断的に参照することで別のまとまりが見えてくることは、複数の資料体が併存するアーカイヴならではであるが、南画廊のような国内外ギャラリー資料はそうした集積によって日々構築される資料体でもある。アート・センターは設立から30年を迎え、3月4日より「Published by KUAC─出版物でたどる慶應義塾大学アート・センターの30年」展を開催する。同機関の軌跡を出版物から振り返ることは、まさに現在進行形で活動する文化機関で生み出される印刷物に触れる機会である。ぜひ、KeMCoの「エフェメラ」展と併せてお楽しみいただきたい。

様々な情報をデジタルで手にする昨今だが、紙に刷られた印刷物が運ぶ情報量を改めて思うと、触覚や嗅覚までも捉えその量はおびただしい。展覧会では、往時の印刷物がもつ魅力とそこで展開される実験的表現から、身の回りにある印刷物エフェメラへも目を向けていただければ幸いである。

(慶應義塾ミュージアム・コモンズ所員 長谷川紫穂)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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