三田評論ONLINE

【その他】
【社中交歓】磁石

2023/10/27

ピップエレキバン誕生秘話

  • 久保田 達之助(くぼた たつのすけ)

    ピップ株式会社取締役、商品開発事業本部長・2017経管研修

磁気の力でコリをほぐすと言えばピップエレキバンを思い出す方が多いと思います。1908年に医療衛生用品卸・藤本眞次商店として創業したピップ。その4つ目の自社商品として1972年に開発された商品がピップエレキバンです。

商品名の由来は、磁気を連想させる摩擦起電器「エレキデン」と絆創膏の「バン」を組み合わせたものです。開発経緯は、磁気をコリのピンポイントに付けて効果を出せないかと考えた時、開発者が米粒を絆創膏に貼りつぼに貼っていたことから米を磁石に変えたら効果があると考え、実験を重ね管理医療機器として製品化されました。当時の会長とタレントさんの掛け合いのCMが素朴で人気になり、爆発的なヒット商品となりました。

今は肩こりに悩まされるママさんやスマホ使用で肩こりの激しい若者にも利用して頂き、老若男女に使われている商品となっています。匂いもなく薬ではないのでどなたにも使える商品です。ドラッグストアで販売していますので、是非一度お試し下さい。

https://elekiban.pipjapan.co.jp/

消費における磁石とは

  • 白井 美由里(しらい みゆり)

    慶應義塾大学商学部教授

情報過多の時代である。多種多様な情報にいつでも容易にアクセスできる反面、膨大な情報の処理は困難でストレスを生むため、自分が価値を置く情報のみにアクセスするといった取得情報の偏りが加速している。消費者の購買に与える影響は、4大マスメディアであるテレビ、ラジオ、新聞、および雑誌よりも、インターネットやSNSの情報の方が大きくなっており、魅力的な店や商品に磁石のように惹きつけられる「マグネット効果」もSNSがきっかけで発生することが多い。SNSでバズっている店や商品は多数の消費者の注意を惹き、自分も経験したいという「バンドワゴン効果」を増幅させるので、マグネット効果は昔よりも遥かに大きくなっている。

私はといえば、SNSやトレンドにはあまり関心はなく、雰囲気が良く信頼性の高い店を利用したり、品質をよくわかっている商品を購入したりと慣性型の消費を多く行っている。ここに着目すると、一過性ではなく、消費者を強く長く惹きつける磁石は、対象との心理的な結びつきの強さなのだと思う。

音と磁石と電気と

  • 船戸 匠(ふなと たくみ)

    慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)特任助教

物体を回転させると磁石となり、逆に物体が磁石の性質を持つと回転する。磁気回転効果と呼ばれるこの現象は、およそ100年ほど前にアインシュタインが生涯唯一行った実験から明らかとなりました。

さて、この効果を初めて耳にする読者も多いのではないでしょうか? それもそのはず。自動車エンジンで毎秒100回転させたとしても地磁気程度の極めて小さな効果しか現れず、それ故注目されてきませんでした。

では、もっと早く回転させればいいのでは? この課題を解決したのは音波でした。音波は小さな円を描きながら物の表面を伝わります。

この特性を用いて1秒間に10億回転以上の高速回転を生み出すことで、磁気回転効果を十分に引き出すことができました。さらに最近の研究から、磁石へ音波を当てると磁気回転効果に由来し発電されることが明らかとなっています。私達の身の回りに溢れる音。この音と磁石が生み出す電気が、私達の未来を豊かにしてくれるかもしれません。

GPSナビ時代に方位磁石は必要?

  • 河瀬 斌(かわせ たけし)

    慶應義塾大学名誉教授、ワンダーフォーゲル部OB

衛星からの電波を利用したGPSナビは正確な位置情報が得られるので車や携帯のナビツールとして広く使われ、地域的誤差(札幌9度、那覇5度西)があるが、昔から登山や航海に必須だった方位磁石は忘れられる時代になりつつあります。

しかし登山で携帯ナビを過信すると思いがけず次のような事故に遭遇することがあります。(1)電池の早期消耗、(2)雷雨急襲による機器の損傷、(3)深い森や谷での電波障害、などによる登山ルートミスです。携帯ナビは登山や災害で避難ルートを捜す上で大いに役立ちますが、意外と早く電池が消耗し、水に弱いので、充電器や防水ラップを持参しないと重大な事故につながります。最近高齢の1人旅の仲間が低山で道に迷い遭難死しましたが、原因の1つに携帯電池の早期消耗があったようです。携帯ナビは便利ですが、不具合があると致命的な事故に繋がります。昔の磁石と印刷した地図は最後のリスク回避手段として今でも重要で、登山には必ず携行するようにしましょう。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事