三田評論ONLINE

【その他】
【社中交歓】杭

2023/09/08

弘法大師空海の橋杭岩

  • 矢倉 甚兵衛(やぐら じんべえ)

    林業経営者、和歌山三田会会員・1967商

今年は、弘法大師空海のご生誕1250年。聖地和歌山県高野山で、お誕生日6月15日にご生誕を祝う大法要が挙行された。この後も、ご生誕関連の行事が繰り広げられる。

空海に関する伝説は、北海道を除く全国5000以上ある由。紀伊半島の先端・串本町にもあって、国の名勝にして天然記念物指定の橋杭岩も、昔から伝説で空海が造ったと言われる。空海と天の邪鬼が旅の途中、串本の向かいの大島は暴風雨だと渡れないので、一晩で橋を架けてはどうかと、天の邪鬼から空海に提案。「それは良い!」と空海は同意し、近くから何万貫もの巨大な岩を、橋の杭として次々海に置いていく。このままでは本当に大島に届き天の邪鬼は空海との賭に負けると察知、天の邪鬼は「コケコッコー」と鶏の鳴き声で、空海に朝だと思わせ作業を終えさせて残ったのが、今の橋杭岩であると。

大小40余の岩が、850mの長さで串本から大島に向かってそそり立つ。実は1400万年前に、カルデラ大噴火により、出来たのが橋杭岩なのだ。

乱杭とはなにか

  • 藤本 正行(ふじもと まさゆき)

    株式会社彩陽代表取締役、歴史研究家・1972文

乱杭(らんぐい)とは護岸のため岸辺に打つ杭のことである。この種の杭は雑然と打たれるため、並びがよくない歯を乱杭歯というのは、ここから来ている。現代では死語に近い乱杭という言葉に私が親しんだのは塾の文学部で学んだ『平家物語』や『太平記』のような軍記物にそれが散見したからである。

たとえば源頼朝軍が宇治川を挟んで木曾義仲軍と戦った時のこと、木曾軍は「水底に乱杭を打ち大綱を張った」と『平家物語』にある。現代の鉄条網のような障害物である。この合戦の際、頼朝の部下の佐々木高綱と梶原景季という勇士が拝領した名馬に乗って先陣争いをした。佐々木は先行する梶原に「馬の背に鞍を安定させる 腹帯(はるび)がゆるんでいるぞ」と声をかけた。そこで梶原は腹帯を締め直そうとするのだが、その隙に佐々木は梶原を追い抜いてしまった。『平家物語』には「佐々木は太刀を抜いて馬の足にかかった大綱をスパスパ切って対岸に渡った」と見える。佐々木の作戦勝ちである。

出典:東京国立博物館蔵「大坂冬の陣図屏風」(筆者によるトレース)

乱杭歯の症状と治療法について

  • 柴山 拓郎(しばやま たくろう)

    医療法人フェイス会理事長、歯科医師・2008経管研修

乱杭歯とは、歯の並びがガタガタしている状態をいいます。正確な定義ではなく八重歯なども含まれます。どうしてこのような状態になるかというと、あごの骨と歯の大きさを比較して、歯のサイズを足した大きさが大きい場合におこります。ただ、乱杭歯は不健康な状態ではありません。乱杭歯だからといって虫歯や歯周病になるといったデータは存在せず、治療する一番のメリットは歯の並びが綺麗になることです。あごの骨の大きさを変えることは難しいので、歯の大きさを変えます。ガタツキが小さければ歯を小さく削り、大きければ歯を抜きます。

歯列矯正を行う際には、歯に装置と針金を使用して治します。装置は歯の表側か裏側、どちらかにつけるのですが、矯正治療は歯の表側からみた並びを重視するため、歯の表側に装置がついている方が治療のコントロールがしやすいという利点があります。一方裏側はコントロールをしにくいデメリットはあるのですが、裏側に装置がついているために人から見えにくいというメリットがあります。

虫二と心心

  • 藤代 一成(ふじしろ いっせい)

    慶應義塾大学理工学部教授・特選塾員

「杭州(こうしゅう)(ハンチョウ)」は南宋の都。中国8大古都のひとつで、国家歴史文化名城にも指定されています。私はJST2国間交流事業に端を発し、浙江省の重点大学である杭州電子科技大学の計算機学院で客員教授を務めてきました。現学長一行をお連れして、三田キャンパスを表敬訪問したこともあります。同市の郊西に位置し、風光明媚な景勝地として名高い世界文化遺産の西湖。その最古の人工島──湖心亭(蓬莱)には、清朝第6代皇帝の乾隆帝が揮毫した石碑が今も遺されていて、「虫」と「二」の謎めいた赤文字が訪れる皆々を驚かせます。「風」と「月」から蔽いを取り払うことで、心地よく美しい眺望が無限に広がることを意味すると解釈されています。幾度となく彼の地から想いを馳せたものです。義塾の本質は、どのような文字に晶化されるべきでしょうか。祝いの心を伝える「慶」とそれにこたえる心を示す「應」。両字に込められた偏傍をとって「心心」とするのはいかがでしょう? これこそ社中協力の思想を最もよく表していると小生は考えるのですが。

杭州市世界文化遺産「西湖」の人工島(蓬莱)にある石碑(筆者撮影)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事