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【KEIO Report】横浜初等部 開校10周年を迎えて

2023/09/07

開校10周年記念式(6月9日)
  • 馬場 国博(ばば くにひろ)

    慶應義塾横浜初等部長

2023年6月9日、慶應義塾横浜初等部開校10周年の記念式が初等部講堂にて挙行された。当日は、伊藤公平塾長や山内慶太常任理事、廣田とし子塾監局長はじめ歴代の塾長や横浜初等部長、各一貫教育校の学校長にご臨席いただき、また地元の方をはじめとして初等部の開校前、あるいは開校後にお世話になった関係者の皆様をお招きして、初等部5、6年生、および教職員とともにこれまでのご支援に感謝申し上げ、開校10周年をお祝いした。

記念式では、生徒による「横浜初等部の歌」の斉唱に続き、私が式辞を述べた後、伊藤塾長よりご祝辞を頂戴した。その後、卒業生を代表して1期生の小松美優君からの祝辞(ビデオメッセージ)と6年生の実行委員が作成した「メモリアルスライド」が上映された。齋藤秀彦主事による10周年記念事業の紹介の後、在校生の伏見咲希君(2年生)、山崎結菜君(5年生)、土井惟千夏君(6年生)が初等部の過去、現在、未来に関する作文を朗読し、最後に10周年の記念ソング「青草の丘は ~ On the green grass hill ~」が初等部合唱隊の歌声で披露されて閉会した。

横浜初等部は2008年の慶應義塾創立150年の記念事業の一環として設立に向けての具体的な検討が始まり、約6年の準備期間を経て2013年に開校した。その詳しい経緯は、初代初等部長の山内慶太さんがお書きになった記事「横浜初等部開校にあたって」(『三田評論』2013年5月号)をご参照いただきたい。

開校にあたって初等部をどのような学校にするのか、様々な意見が交わされた結果、生徒たちが卒業する時に身に付けてほしい資質として、「身体健康精神活発」と「敢為活発堅忍不屈の精神」という福澤先生の2つの言葉が掲げられた。生徒が社会に出て、その中核として活躍する21世紀の後半は、今まで以上に複雑で利害が錯綜する、そしてまた益々変化が激しい社会になるであろうことを考えた時に、目の前に現れた難しいことに粘り強く取り組み、解決に導ける力が必要になることから意図されたものであった。それらの資質を備えるために、初等部では日頃から「律儀正直親切」な性質を養うことに力を注いでいる。

また、初等部では授業をはじめ様々な活動において、以下に示す3本の柱を大切にしている。1つ目の柱は「体験教育」であり、具体的な観察や体験を重視し、遊びも含めた体験を通して科学的に物事を考える態度を養おうというもので「実学」の精神にも通じる重要な態度といえる。2つ目の柱は「自己挑戦教育」であり、生徒が自分の得意なことを伸ばし、苦手なことを克服する体験を大切にし、その体験を重ねることによって「不屈のこころ」を育てようとしている。3つ目の柱は「言葉の力の教育」で、良書に親しみ、自分の考えを他者が理解できるように言葉で表現する訓練を通じて、読む、書く、聞く、話す力を高めようというものである。育成すべき力には「科学の言葉」も含まれており、データサイエンスの素養を身につけさせる仕掛けも今後考えていきたい。

初等部内では2020年度途中から教員による実行委員会が立ち上がり、約3年間かけて記念事業の準備を行った。10周年記念事業は主に記念ソング、記念誌、および記念品の作成と、記念式の実施の4つから成る。

まず記念ソングの作成にあたっては、「横浜初等部の歌」や2つの愛唱歌「歩いてゆこう」「この丘に」の作詩も担当いただいた林望さんに作詩を依頼した。作曲は林さんからご推薦いただいた上田真樹さんにお願いした。初等部が誇る天然芝のグラウンドをモチーフとし、慶應義塾の理念についても歌い込まれた素晴らしい曲が完成した。林さんと上田さんには記念式にもご参列いただいたが、この場を借りて改めて篤くお礼を申し上げたい。

記念誌『10 COLOURS』については、美しい写真やイラストに、これまで初等部に関わった生徒や教職員の思いが込められた文章を織り交ぜ、写真集のようでありながら読み応えのある極上の文集に仕上がっている。

次に、記念品の作成にあたっては、まず教員研修会において、初等部のこれからの10年に向けたスローガン「Make your own colours ~ Paint the world みんなの色で世界を彩ろう」を策定した。これには、「変化の激しい社会にあっても、人と比べることなく、自分ならではの色(特色、個性)を大事にしよう。そして、みんなが協力しあい、さまざまな色で彩られた世界を創っていこう」という思いが込められている。その後、このスローガンにあったシンボルマークのデザインを初等部生に募集し、221件の応募作の中から、5期生の山田芙来君の作品が選出された。この作品をもとに図工科でデザインを固め、七宝焼きのビンバッジと捺染の手拭いを作成し、記念品とした。また、記念式当日おいでいただいた方には、このシンボルマークの焼き印の入ったどら焼きをお土産としてお持ち帰りいただいた。

記念事業のメインともいえる10周年記念式については冒頭で述べた。その一方で、この10年間の初等部の歴史は教職員と卒業生および在校生、さらにはその保護者が協力して創ってきたものである。そこで、記念式の翌日、6月10日には在校生向けの記念式を行い、併せて6年生の実行委員の生徒が主催する記念イベントをグラウンドで行った。

また、翌11日には、卒業生約300名とその保護者約200名のご参加を得て、初等部の講堂で記念式を行った。それぞれの記念式では、私の式辞に加えて、山内初代部長兼常任理事からもビデオメッセージで祝辞を頂戴した。卒業生向け記念式の後には、1期生から5期生が一堂に会する同窓会を開催することもできた。翌週の17日には在校生保護者の全学年保護者会の中で各記念式について報告をし、一連の記念イベントを終了した。

横浜初等部は開校から10年が経ち、英国、オーストラリア、アイスランドの国際交流プログラムや、海の学校、山の学校など新たな教育プログラムを育てながら、次の10年に向けて歩み始めている。今後も変わらぬご支援をお願いできれば幸いである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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