【その他】
【From Keio Museums】北斎と国芳 好敵手の競演
2023/05/15
「百人一首宇波(うは)か縁説(えとき) 藤原道信朝臣」
24.8×37.2(cm)
慶應義塾蔵 (高橋誠一郎浮世絵コレクション)
「百人一首之内 大江千里」
36.9×24.8 (cm)
慶應義塾蔵 (高橋誠一郎浮世絵コレクション)
慶應義塾は、経済学者として長く教鞭をとり、さまざまな要職をつとめた高橋誠一郎(1884-1982)が収集した浮世絵コレクションを所蔵しています。「高橋誠一郎浮世絵コレクション」と称される質量ともに充実したコレクションから、個性的かつ芸術的な表現を打ち出した浮世絵界の好敵手、葛飾北斎(1760-1849)と歌川国芳(1797-1861)による、駕籠(かご)を主題とした作品を紹介します。
北斎の「百人一首うばがゑとき」は、「冨嶽三十六景」の成功後、天保6~7年頃に制作され、色数が多く豪華な摺りが際立ち、非常に手の込んだシリーズになっています。「うばがゑとき」とは、乳母が子供に百人一首の歌意を分かりやすく説明するという意味で、このように百人一首を解説するシリーズは当時の需要に応えた企画でした。「藤原道信朝臣」においては、「明けぬれば暮るるものとは知りながらなほうらめしき朝ぼらけかな」の歌意を、吉原通いの商家の男が、早朝、勤め先の店に急いで戻るという、江戸時代の風俗に置き換えて表しています。スピード感を全面に押し出し、駕籠の中の男の気持ちとはうらはらに、遊女との物理的な距離がぐんぐん離れていく様が際立ちます。他方、国芳の「百人一首之内 大江千里」は、「月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど」の歌意を、お客を運んだ後の空駕籠を背負った駕籠舁(か)きが、ふと足を止めて、夜空に輝く満月を見上げるという日常風景で表現します。西洋版画の表現から学んだ月光の表現、うずくまる猫(あるいは犬)といった景物が画面にリアリティを加えています。
浮世絵に新たに風景画(往時は名所絵)というジャンルを確立した北斎。武者絵を得意とし、物語絵や風景画に当時の世相を巧みに取り入れた国芳。それぞれに得意とした表現がありますが、このように同じ主題で比較すると、北斎の造形感覚の鋭さ、国芳の江戸っ子の暮らしを切り取る視点の妙に気づきます。北斎と国芳の個性豊かな数々の作品は、5月15日〜7月15日まで、慶應義塾ミュージアム・コモンズの「さすが!北斎、やるな!!国芳」展でご覧いただけます。
(慶應義塾ミュージアム・コモンズ 松谷芙美)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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