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【社中交歓】将棋

2022/11/22

人間将棋のルーツは?

  • 辻 輝彦(つじ てるひこ)

    辻蕎麦代表、山形三田会会員・1963法

毎春、天童市の舞鶴山頂で行われる「人間将棋」は、甲冑をまとった武士や腰元に扮した人間が将棋駒になって戦う催しです。対局者が指し手を発声し大きな王将太鼓が打ち鳴らされると、指示に従い人間駒が動く様はまさに盤上の武者絵巻です。広場の案内版に「人間将棋は太閤豊臣秀吉が甥の関白秀次を相手に桜花爛漫の伏見城で小姓と腰元を駒に仕立て野試合を楽しんだ故事にならった」とあります。

「人間将棋」を発想し実行した当時の観光協会長の辻勇蔵は私の父で、そのきっかけを尋ねると「ある旅館の社長さんから見せて貰った西洋の絵本で人間チェスを見た」とのこと。私も是非見たいと思いましたが、その後残念なことに絵本を焼失したそうです。

映画監督の木下恵介さんが来天された際には、私が「人間将棋」の現地に案内し説明をすると監督曰く「フランスのルイ14世がベルサイユ宮殿で人間チェスを楽しんだ故事があります」とのことで、もしかすると「人間将棋」はベルサイユ宮殿がルーツなどと勝手に想像し楽しんでおります。

将棋AIの描く現在

  • 杉村 達也(すぎむら たつや)

    弁護士、将棋AI開発者・2010法

人工知能の進歩によって、人類はその仕事を奪われるのではないかといわれる。実のところ、将棋の世界は、先んじてAIとの関わり方を経験している。

2017年、将棋AIポナンザがプロ棋士の名人に2連勝したが、2022年現在、私の開発する将棋AI水匠(すいしょう)は、そのポナンザに対し、勝率99パーセント以上を叩き出す。AIは、将棋の強さという面で人類を置き去りにしてしまった。

では、その結果、将棋は廃れてしまったのかというと、全くそんなことはない。将棋AIの力を使って、プロ棋士はその実力を高め、日夜、指し手の精度を向上させている。また、将棋AIが何億手も計算しなければ到達できない隠された好手に気付くプロ棋士という存在も発見され、AIという尺度によって人類の頭脳の神秘が再確認された。AIによって、将棋の世界はより広がりを見せたのである。

将棋の世界において、AIは人類の敵ではなく、パートナーとなった。人工知能の発展する未来は暗いとは限らないと私は思う。

横歩取りの事情

  • 上村 亘(かみむら わたる)

    日本将棋連盟棋士・2014理工

すべての局面がAIの評価で数値化されることにより、プロの将棋がシビアになっている。筆者は後手のときに「横歩取り」という戦型を好むが、この戦型は後手に厳しい評価が下される。将棋の神様に突き詰められればおそらく先手勝ち。後手で「横歩取り」の戦型を選ぶことは、スタートラインから出遅れた状態で陸上競技を行うようなところがある。

かつて、「横歩取り」は相居飛車(あいいびしゃ)戦における主要戦型だった。タイトル戦の番勝負で後手番時に連続採用する棋士もいた。後手でも攻勢がとれる人気作戦。それが、AIの影響により、激減した。ただ、筆者の場合は「横歩取り」が合っていて、将棋の作り的にミスが少ないと思えるので採用する。AIに評価される戦型を選んでも、ミスをすれば評価値は下がる。それなら最初から横歩取りを選んでノーミスを目指した方が良いのではないか。やはり良い手を多く指せる戦型を選ぶ方が得策であり、自分の色を出せると今は考える。横歩取りを好む棋士もいるので、戦型自体が絶滅する危惧はないはずだ。

学校部活動の本質

  • 鳴海 達也(なるみ たつや)

    慶應義塾高等学校教諭、棋道部長

将棋は、野球やサッカーなどとは異なり、団体に所属しないとプレイできないというものではない。近年はインターネットで世界中の人と対戦できるのでなおのことである。実際、棋道部に所属しない生徒の中に、学校や地域でスポーツの団体に所属しながら個人の趣味として将棋を続けている者は多い。

となると、棋道部などというものを学校に設置する意味は何であろうか。

私は、同じ志を持つ者が集う1つの団体を、生徒が自ら運営する経験こそが、学校の部活動の本質だと考えている。メンバー間の、ときに対立する意見を調整しながらトラブルを解決していくことは、ただ将棋を指しているだけでは得られない、貴重な経験だと思うのだ。だから部長である私は、普段は極力存在を消していて、部員たちだけでは解決できないことが起きたときだけ姿を現すことにしている。

部員たちは、将棋で培った「先を読み、的確に次の1手を選ぶ能力」を部の運営にも発揮しているようで、幸いなことに部長の出番はほとんどない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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