三田評論ONLINE

【その他】
【From Keio Museums】場所と在る、作品と在る

2022/09/09

▲大山エンリコイサム《FFIGURATI #314》2020年

アクリル性エアロゾル塗料、コンクリート柱/昇華転写プリント、ポリエステルオーガンジー
H.2750 × W.7790 × D.1140
Photo © Shu Nakagawa
空間設計・・・原田将太郎(株式会社Lights)、吉羽拓也(STUDIO TOO)
ファブリックデザイン監修・・・庄司はるか(Haruka Shoji Textile Atelier)

三田キャンパス東別館の8階にあるKeMCo StudI/O(ケムコ・スタジオ)、そこにはある作品が設置されている。大山エンリコイサムによる《FFIGURATI #314》(2020年)である。

《FFIGURATI #314》は美術作品であると同時に、複数の機能・特性をもつ部屋のための設えでもある。コミッションワークとして制作された本作品は、建物の柱にエアロゾル塗料で描いた壁画部と、半透明のオーガンジー生地にデジタル転写プリントを施したカーテン部で構成される。フィジカルとデジタルを往来する創作活動を狙いのひとつとするKeMCo StudI/O という場において、作家とスタジオ設計チームによるディスカッションが可変する壁面(=カーテン)の構想を生み、それ自体を作品の一部とすることで、性質の異なる空間をゆるやかに分け/つなぐことを可能とした。

大山は、都市や地下鉄の一部に名前をかいていく表現文化のひとつであるライティング・カルチャーへの関心から、独自のモティーフであるクイックターン・ストラクチャー(Quick Turn Structure、QTS)を展開させる美術家である。ライティングの特徴とされる線の運動を抽出・反復したモティーフであるQTSは、支持体の上を自走し自ら構造を成していくという。《FFIGURATI #314》においてもQTSは、固く不動である建物の柱と柔らかく可動するカーテンという属性も素材も異なる2つの支持体の上を縦横する。それらは支持体との関係において、そして空間の在りように応じて、光の反射や空気の振動といった周辺の要素を取り込みながら、時に明瞭な、時にゆらぎを含んださまざまな表情を見せる。そして、ふとした瞬間にスタジオに棲まう何者かの気配をも感じさせるのだ。

本作品はこれまで、展覧会やイベントに合わせた「KeMCo StudI/O 公開日」にて一般公開されてきた。そして今秋には、大山エンリコイサムの展覧会(10月17日〜12月16日)がKeMCoにて開催される。自ら構造を成していくQTSは、KeMCoという場でどのような展開をみせるのか。ぜひ期待されたい。

(慶應義塾ミュージアム・コモンズ所員 長谷川紫穂)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事