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【その他】
【社中交歓】櫛

2022/09/01

ツバキ油とつげ櫛

  • 日原 行隆(ひはら ゆきたか)

    株式会社椿代表取締役社長・1965法

私は22年前から伊豆大島で椿油の製造、販売をしています。弊社の椿油は国産のツバキ油のみ使って加熱しないエクストラバージン製法でスキンケア用の商品を作っています。今回はスキンケアの面からつげ櫛とツバキ油について考察したいと思います。

そもそもつげ櫛は日本髪の毛を梳くために開発されました。日本髪を結うには最低1~2時間くらいかかり、特に舞妓さんは寝る時は髪が乱れないよう高枕で寝て1週間くらい髪型を持たせるため、頭皮からフケや汚れが出てきます、その汚れを取り髪に潤いを持たせるためには限界まで細くしたつげ櫛の歯とツバキ油は無くてはならないものだったのです。

しかしつげ櫛は頭皮より髪の毛を整えるものであり、衛生面では不安が残ります。弊社と大学の最新の研究によると、頭皮を清潔にし、ツバキ油で頭皮を保湿することこそ健全な髪が育つ(スカルプケア)という新しい実験結果が出ました。日本の良き時代の美容文化遺産であるつげ櫛とツバキ油の文化ですが、これからの理容にはやや不向きのようです。

櫛瓜を食す

  • 溝部 良恵(みぞべ よしえ)

    慶應義塾大学経済学部教授

ある人が台湾を旅行中にカフェに入ってメニューを開くと、「櫛瓜義大利麺」と書いてありました。さて一体どんな料理なのでしょう。「櫛瓜=ズッキーニ」、「義大利=イタリア」、ズッキーニパスタのことです。ズッキーニは、中国語圏の家庭では、イタリア料理の普及とともに、最近夏野菜として定着しつつありますが、一般に大陸では「西葫蘆」、香港では「翠玉瓜」、また台湾では「櫛瓜」と呼ばれています。ズッキーニの正式名称は、「夏南瓜」すなわち本来はカボチャの一種です。ところがズッキーニの形は、冬瓜の一種である「節瓜」に似ているため、「節瓜」もしくはその字形が似ている「櫛瓜」と呼ばれるようになったようです。そして「節瓜」との混同を避けるためか「櫛瓜」という表記が定着しつつあるようです。残念ながら、今は自由な移動が難しい時期ですが、ネットで「櫛瓜」と検索してみてください。「櫛瓜炒肉絲(ズッキーニの肉炒め)」などズッキーニを使ったおいしそうな料理の動画を見ることができるでしょう。

スペインのベールと櫛

  • 瀧本 佳容子(たきもと かよこ)

    慶應義塾大学商学部教授

スペインにはペイネタ(peineta)という、鼈甲(べっこう)、象牙、金属などでつくられ、透かし彫りを施された大きな飾り櫛がある。結髪に刺してマンティーリャ(mantilla)というベールをかけるとスペイン女性の正装となる。女性がベールで頭を覆うのは西ヨーロッパの古い習慣で、カトリック教会では今でもローマ教皇に正式に謁見する際などに女性はベールを被らなければならない。女王や王妃という最高身分のカトリック教徒のみ白いベールを用いることが許され、スペイン王妃ならペイネタも使う。

櫛とベールが広まったのは、18世紀にポンペイとヘルクラネウムの遺跡が発掘されて古代ローマの装飾美術や建築への関心が高まったことがきっかけだった。古代ローマ人が櫛で持ち上げたベールで身を飾っていたことがわかり、スペインやフランスで流行った。しかし、今のスペインでは一般的ではなくなり、国家行事、王侯貴族や名家の結婚式や葬儀、スペインを訪れた外国人がコスプレ感覚で装う場合などを除いてはほとんど見られなくなった。

櫛田神社と山笠

  • 井上 浩義(いのうえ ひろよし)

    慶應義塾大学医学部化学教室教授

福岡市は、市中央部を流れる那珂川により東西を分けられ、西側は武家の町「福岡」であり、東側は商人の街「博多」と呼ばれる。その博多の氏神であり総鎮守が櫛田神社である。この櫛田神社は757年に三重県松阪市に鎮座する櫛田神社を勧請したものと伝えられている。「櫛」の由来は、倭姫命(やまとひめのみこと)がこの地で櫛を落としたことに由来するようであるが、詳細は不明である。博多の櫛田神社を有名にしているのが櫛田神社祇園例大祭、いわゆる博多祇園山笠である。博多の街は、7月上旬は山笠一色になる。

一方で、私自身の思い出は甚だ陳腐である。小さい頃は、櫛田神社の隣にあった渕上百貨店に買い物に行き、帰りに櫛田神社に参拝する程度であった。また、櫛田神社の近くの高校(福岡高校)に通っていた頃は、山笠の舁(か)き手(担ぐ人)が足りないと言うことで、何度か山笠を舁かせて頂いた。ただ、思春期の高校生としては、気分の高揚よりも締込み姿が恥ずかしいという思いが勝っていた。それでも博多に帰るとなんとなく櫛田神社に足が向く。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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