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【KEIO Report】「教学マネジメント推進センター」の設置について

2022/07/26

  • 松浦 良充(まつうら よしみつ)

    慶應義塾常任理事・大学教学マネジメント推進センター長

2022年4月1日、慶應義塾大学教学マネジメント推進センター(Center for Quality Assurance in Higher Learning of Keio University)が発足した。同時にセンターの事務を担当する部署として、教学マネジメント推進室が設置された。

本センターは、「慶應義塾大学における教育・学修の評価・改善活動の促進、教育・学修の質の保証と向上および一層の充実、ならびにそれらを通じて、総合的な学塾としての慶應義塾の発展と社会的役割の十分な発揮に資することを目的」(センター規程第2条)としている。学部・研究科などによって多彩に展開されている教育・学修活動を、全学的な観点から総合的に捉え直し、大学をとりまく社会や世界の動向も視野におさめつつ、学内外の知見を結集して点検・整備・改善に取り組むことが使命である。特に恒常的に実施される点検・評価活動を、全学的な教育・学修の改善につなげ、それをまた点検・評価する。まさに英文名称にある内部「質保証」体制の機能化をめざしている。このように本センターは、各学部・研究科などの教学部局、そしてその教育・学修活動を支援する学事担当部署、さらに点検・評価を担当する塾長室企画担当を架橋し連携強化をはかる役割も担う。

センターの事業は、多岐にわたる(規程第3条)。「①大学における教育・学修の質の保証、向上のための諸施策の立案、実施およびその支援、②各学部・研究科の教育内容および成果の評価・検証、改善の支援、③学部・研究科の組織横断的な教育に関する取り組みの企画および実施、④入学者選抜から教育課程編成および学位授与までを対象とした、新たな選抜方法、教育手法、および学修支援に関する研究開発、普及促進、⑤教育・学修に関するIR(Institutional Research)のための学内外の情報収集、分析およびその提供、⑥高等教育全般に関する調査・研究およびその成果の社会への発信、⑦その他、センターの目的達成に必要な事項」、である。

センター長には、教育担当常任理事として筆者が就任し、副センター長として、岸田和明・文学部教授、門川俊明・医学部教授、白濱圭也・理工学部教授が任命された。またセンターの運営にかかわる諸事項の審議のために、センター長・副センター長に加えて、学部長・研究科委員長などから構成される運営委員会が設置されている。

センターの活動の要になるのが「ワーキングチーム」(WT)である。運営委員会の下に、任務別に編成される組織である。各WTには、センターの所員、研究員が所属して活動に参画する。規程上(第6条)常設されているのは、「教学企画」(白濱)、「教育・学習成果評価」(岸田)、「FD促進」(松浦)、「教学IR」(門川)の4チーム(括弧内は、チームリーダー)である。このほか中期計画における喫緊の課題に対応するために、「大学院共通プログラム」WT(泰岡顕治所員)の設置が運営委員会において認められた。

大学における教育・学修活動の諸側面について、このように全学的な観点からの調査・研究、分析・評価、企画・運営、情報発信などにもとづいて「マネジメント」を推進する組織の創設は、慶應義塾にとってはじめてのことである。

すでに多くの大学で、この種の組織が設置されている。その草分け的存在は、1972年に発足した広島大学の大学教育研究センター(現・高等教育研究開発センター)である。この5月に創立50周年を迎えた。その後国立大学を中心として、大学・高等教育研究・調査、全学共通科目などのカリキュラム開発・運営、入学者選抜改善、学修成果測定、大学評価、FD/SD(Faculty / Staff Development:教職員研修)、IR(大学運営・教学に関するデータ・情報の収集、分析、共有)などに取り組むさまざまな大学・高等教育の研究・運営組織が発足し、多くの場合、専任教員が配置されている。さらにこのような動きは、公・私立大学にも及んだ。たとえば早稲田大学では、2014年に大学総合研究センターが設置され、高等教育研究および教育方法研究開発の2部門を擁している。

こうした動向と比べると、慶應義塾における大学・高等教育に関する調査・研究や教育・学修にかかわる開発・支援の活動は、明らかに周回遅れの状況にある。

慶應義塾では、教育・研究活動が複数のキャンパスで展開され、各学部・研究科が、独自の伝統や方針にもとづく個性的な教育を実施してきた。各キャンパスは、それぞれに独特の雰囲気や文化をもっている。それらは、慶應義塾の強みでもある。しかし各キャンパス、学部・研究科等で多彩に提供されている教育・学修資源の合理的で有意義な有効活用がなされにくいことなど、全学的な対応が必要なことも少なくない。学際化や社会課題への対応、さらにグローバル化の趨勢のなかで、従来の慶應義塾の強みを活かしつつ、全学的な観点からの教育・研究・学修の再構成が不可欠である。

これまでも、大学評議会の下にある大学教育委員会、さらにその小委員会である大学教育企画検討委員会(2018〜21年)や大学教育企画委員会(2021年〜)において、全学的な教育実施方針の検討が行われ、セメスター制の実質化、GPA制度の整備、授業科目ナンバリング、コロナ禍における授業実施方針など、さまざまな施策が打ち出されてきた。

現在、日本の大学教育政策では、「供給者目線」から「学修者目線」への転換が強調されている。大学・教員の側が教えたいことを教える、という姿勢ではなく、学生に何をどのように学修させ、どのような力を身につけさせるのか、という「学修者本位」の観点から、大学や各学部・研究科が主体的・組織的に教育方針を策定・実施し、教育・学修資源を有効活用することが重要課題である。ここ数年導入された前述の諸施策は、この「学修者本位」の教育の実現をめざしてきた。教学マネジメント推進センターは、こうした実績を継承しつつ、点検・評価活動や研究・調査の知見にもとづいて、より機動的に慶應義塾における新たな大学教育の創出をめざしてゆく。塾内外からのご支援とご協力をいただきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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