【その他】
【社中交歓】紫蘇
2022/06/13
紫蘇をハーブの主役に
香りはヒトでは第3の感覚といわれながら、その意義はあまり高く評価されていなかった。日常の生活のことを考えてみても、我々は視覚と聴覚情報の洪水に埋もれて暮らしていて、香りに関心を示すことは少なかった。
ところが最近、香りが脳の働きに作用して認知や情緒に少なからず影響を与えることが指摘されるようになった。そのような効果を最新の脳機能画像や脳波分析によって明らかにしようという研究も行なわれるようになっている。しかし、残念なことにジャパニーズハーブについては、柚子やクロモジなど一部のものを除いては、現在のところ成果に乏しい。
紫蘇は庭やベランダでも栽培ができる地味な佇まいのハーブで、その役割はメインの食材のツマである。私は以前から紫蘇の香りは脳の働きを活性化し、少し大袈裟にいうと、認知症予防にも役立つかもしれないと期待を寄せてきた。認知機能を向上させるというエビデンスを生理学的に示し、紫蘇が脇役から主役へと転じるお手伝いをしたいと思っている。
鳴子の「しそ巻き」
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工藤 隆哉(くどう りゅうや)
元風雅堂亭主・1974政
鳴子では、昔から各家庭で「しそ巻き」を作っているよと言ったら、さぞ皆さんは驚かれるであろう。但し、昭和の初めころまでの話である。現在、その伝統を守りながら作っている処は3、4軒のお店だけになってしまった。何かと忙しくなった現代では家庭で作るより旨く、安価にお店で手に入るのである。鳴子の「しそ巻き」と言えば、こけしで名高い鳴子温泉のお土産として、湯治客に大変人気があった。それが、いつしか東北の地場産品として評判となり、現在では全国の物産展でも人気商品として扱われるようになったものだ。
簡単なレシピをご紹介しよう。ゴマと胡桃と味噌と砂糖を少々混ぜ、よく練ったのを青じそで包む。お好みで唐辛子を入れ、3個を串で刺し、油でさっと揚げれば出来上がり。揚げたてはパリッとして、しその香りと甘辛い味噌の味が口いっぱいに広がり、お食事やお酒のお供に、これがあれば他に何もいらない優れもの。
どうぞ皆様にも一度ご賞味頂きたい。
曽我梅林と十郎梅干
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穂坂 匡昭(ほさか まさあき)
丸勝小田原屋代表・1975法
小田原市の梅は、関東三大梅林に数えられる曽我梅林を中心に栽培され、神奈川県で最大の生産量を誇ります。曽我地区は気候温暖、近くに酒匂川(さかわがわ)があり水質もよく海も近く自然に恵まれています。また歴史的には戦国時代の武将北条氏が統治していた以前から梅の栽培が行われており、江戸時代には「東海道中膝栗毛」に梅漬が小田原の名産品として登場しております。中でも十郎梅干は、小田原で育種され歌舞伎の演目にもなった『曽我物語』の主人公である曽我の五郎十郎兄弟から命名の由来がある小田原オリジナル品種です。収穫期は6月の中旬から下旬です。
十郎梅干は一般的な品種と比較して実が肉厚で柔らかく種が小さいことから梅干用品種の最秀品とされ、収穫期には皮が薄く破れやすいため、1つずつ丁寧に手でもぎます。梅干には着色と風味付けのために、赤紫蘇を使用する赤梅干と、塩と梅だけで漬ける白梅干がありますが、十郎梅干は土用干しで太陽の恵みをいっぱい浴びた伝統的な白梅干です。この機会にぜひ、食べ比べてみてはいかがでしょうか。
紫蘇香る町 白糠町
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大久保 光哉(おおくぼ みつや)
北海道教育大学岩見沢校准教授、声楽家・1988法
北海道東部、太平洋を望む自然豊かな白糠。そこが私の故郷です。春には、行者ニンニクやこごみ、わらびを採りに行ったり、氷下魚(こまい)を釣りに父と海へ行ったり(たまに、釣り上げた魚をキタキツネが持っていってしまったことも……)と、自然と共に過ごしたものです。豊かな漁場に恵まれ、ししゃもや鮭、つぶ貝などの海産物が、そして近年ではチーズの生産でも全国的に知られるようになりました。そんな白糠でひと際目立つ存在が、しそ焼酎《鍛高譚(たんたかたん)》。紫蘇の生産者が、紫蘇を原料にしたジュースで焼酎を割って飲んでいたことがきっかけで誕生、その後町おこしの一環として製造販売しました。聞くところによると、最初はスッチー(キャビンアテンダントの女性の意味)の口コミから全国的に広がったようです。紫蘇を使用した商品は焼酎だけにとどまらず、ラムネや醤油にまで及んでいます。9月の収穫直前には一面紫色に染まった紫蘇畑が……。一度足を運んでみたらどうでしょう。ちなみに《鍛高(タンタカ)》とはアイヌ語で魚のカレイのことです。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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古賀 良彦(こが よしひこ)