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【From Keio Museums】Enjoy Baseballの原点

2022/05/20

大リーガーのシェーファー、トムソンと慶應義塾野球部の集合写真 昭和43(1910)年
野球部監督前田祐吉のノート 昭和59(1984)年

福澤諭吉記念慶應義塾史展示館春季企画展として「慶應野球と近代日本──“ヘラクレス”から“Enjoy Baseball” へ──」展(6月6日〜8月13日)を開催する。

筆者は次のように理解している。慶應の野球は単に勝つだけでなく、1人1人が考え工夫して努力することを求める。学業との両立もそこに含まれ、その自信の先にチームワークが生まれる。鬼監督の軍隊式統制下で言われるままにプレーして、野球がすべてという修行のような「野球道」に邁進する青春を選択する方が、実はたやすい。そんな苦悩をおくびにも出さず、試合ではどこよりも闘争的に勝ちを求める。それでこそ味わえるのが、本当のBaseballの楽しみなのだ、と。激烈な反骨精神を「エンジョイ・ベースボール」というソフトな言葉で包んだのが、慶應野球だ。

この「エンジョイ・ベースボール」という言葉を全国区にしたのは慶應高校野球部監督だった上田誠であろう。しかし、掲げ始めたのは大学野球部監督を計18年務めた前田祐吉である。冒頭の写真(下)は、前田が残したノートで、そこにはエンジョイ・ベースボールの意味として「工夫と創造の楽しみ」などとあり、「野球だけで人間ができる筈がない」「たかが野球」といった、挑発的なメモが並ぶ。

「エンジョイ・ベースボール」という言葉をはっきり記した文献は前田以前に見当たらない。しかし前田は、この言葉は野球部の大先輩から伝わってきたものと書いている。原点をたどる旅は一筋縄ではいかない。ここではパズルのピースをあと一つ。上の写真は、明治43年、慶應野球部が大リーグの猛将マグロウに依頼して2人の大リーガー、シェーファー(後列中央右)とトムソン(同左)を神戸に招いた際のもの。1カ月にわたる特訓合宿は、日本人が理論的、系統的に野球戦術を学んだ最初とされ、この写真は野球殿堂博物館にも飾られている。

慶應義塾は、個人の主体的努力を尊び、実証や合理性を重んじるカラッとした気質が伝統で、極端な上下関係や根性、精神主義への傾斜を嫌う。これは福澤諭吉その人の気質であった。そして野球が生まれたアメリカの気質でもある。野球はそのようなスポーツであり、そういうゲームである。

歴史はさらに遡る。続きは展示会場へ。

(福澤諭吉記念慶應義塾史展示館副館長 都倉武之)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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