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【KEIO Report】 慶應義塾大学病院グランドオープンを迎えて
2022/05/18
慶應義塾大学病院はエントランス棟と外構整備工事が2022年4月末に完了し、ゴールデンウィーク明けの5月16日にいよいよグランドオープンを迎えます。信濃町駅から外苑東通りを渡りますと新病院棟のデザインコンセプトである「Keio Forest 慶應義塾の杜」を体現する植栽豊かな外構アプローチが始まります。病院敷地の玄関となる「杜のゲート」を通過し、並木通りである「杜のプロムナード」が来院者をエントランスに導きます。その途中に設けられた休息や憩いの場となるウッドデッキ「杜のテラス」や広場「杜のプラザ」を左に見ながら新正面玄関に到着します。
正面玄関に入ると左には福澤諭吉先生の胸像が設置され、右にはメインの病院棟である1号館に向かってメディカルストリートが真っ直ぐに延び、柱の壁面には液晶パネルが埋め込まれ、ご来院の皆様に様々な有用な情報を提供する予定です。建築、インテリア、デザイン、照明などが1つになって病院全体が杜のイメージで表現され、患者さん・ご家族、教職員、学生にとって居心地の良い快適な環境が整います。また、これまでの工事の期間、車でご来院の皆様にはご不便をおかけしていましたが、正面玄関前のスペースには合計207台の駐車が可能な来院者用駐車場と車寄せも整備されます。
ここで新病院棟建設事業の経緯を簡単に振り返りたいと思います。老朽化が著しく患者のニーズに応えることが困難になっていた慶應病院の建て替えを行う気運が2008年の慶應義塾創立150年を機に高まりました。ただ、その頃の病院の基本金組入前当年度収支差額は赤字続きで財務・収支の改善が新病院棟建設の大前提となっていましたが、慶應義塾法人、医学部・病院執行部のリーダーシップのもと様々な経営改革が行われ、2009年以降は収支の黒字化が達成されるようになりました。
2010年に新病院棟建設企画委員会が発足し、2012年には「新病院建設を中核とした世界に冠たる総合医学府の構築」という目標のもと基本構想が策定されました。狭隘な信濃町キャンパスで医療を確実かつ安全に提供しながら新病院棟建設を行うことは至難のことでしたが、綿密な医療機能のローリングと建物のスクラップアンドビルドの計画が策定されました。2014年、1号館Ⅰ期棟が着工され、2015年竣工、さらに2016年には本丸とも言えるⅡ期棟が着工、2018年に竣工し、Ⅰ期棟とⅡ期棟が完全に一体化しました。地上11階、地下2階の免震構造の1号館(新病院棟)は2018年5月7日に開院し、本格的に稼働しました。翌年の2019年度には延べ87万人(1日平均3252人)の患者が外来を訪れ、31万人(1日平均846人)の方が入院し、1万6千人超の方が手術を受けるなど、まさに先進的な高度医療を提供する慶應医学の拠点施設としての機能を果たしています。
一方で当初、慶應病院開院100年の年に当たる2020年に竣工予定であったエントランス棟と外構整備工事は、並行して行われていた2、3号館の改修や東京2020オリンピック・パラリンピック大会などの影響もあり、予定より約2年遅れての竣工となりました。俳優の故石原裕次郎氏が入院中に屋上から手を振ったことで知られる旧1号棟などを取り壊し、新エントランス棟が建設され、これを現2号館と連結させることで工事が完了いたしました。
新病院棟の建設資金(当初予算は300億円、その後360億円に増額)は慶應義塾法人からの支出、病院収益からの積み立てのみでは補えず、費用のうちの100億円は募金で賄う計画となりました。2013年1月1日より戸山芳昭信濃町キャンパス担当常任理事(当時)を募金戦略会議の議長としたプロジェクトがスタートしました。医学部同窓会である三四会会員はもちろんのこと、広く慶應社中の皆様や患者の方々、関連のある企業などからも多大なるご支援・ご厚志をいただき、2018年3月には目標を上回る募金額を達成いたしました。
清家篤元塾長、長谷山彰前塾長、伊藤公平現塾長の歴代塾長と義塾執行部および歴代信濃町執行部が一体となって進められた義塾史上最大とも言える本プロジェクトは、この度のグランドオープンにより事実上完了したことになります。多くの関係者のご努力・ご尽力、また、慶應社中をはじめとする多くの皆様からのご支援の賜であり心からの敬意と感謝を表したいと思います。また、患者の方々には、工事中度重なる動線の変更などで大変なご迷惑をおかけしたにもかかわらず、慶應病院に変わらずお越しいただいたことを大変有り難く思います。
信濃町教職員は真新しい医療の舞台をご用意いただき、大変喜ばしく思うとともに、慶應らしい質の高い、患者の方々にご満足をいただける診療を提供すべく、心を新たにしております。現在、慶應病院は31の診療科が互いの垣根を無くし、すべての職種が協力して患者の皆様に最良のチーム医療を提供すべく努力をしています。治療が極めて困難ながん、免疫、遺伝などによる難治性疾患に対しては複数の診療科の専門家チームからなる24のクラスター部門(本稿執筆現在)が高度な医療を行っており、全国から訪れる難病の方々にとって最後の砦として専門性の高い治療を提供しています。
この度のグランドオープンを機に信濃町教職員が一丸となり、医療、研究、教育、イノベーションの分野で慶應医学のさらなる発展を目指して参ります。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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松本 守雄(まつもと もりお)
慶應義塾大学病院長