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【KEIO Report】 JST次世代博士支援「慶應コロキアム」の開催について

2022/04/15

パネルセッションの様子
  • 稲蔭 正彦(いなかげ まさひこ)

    慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科委員長、同教授

JST(科学技術振興機構)次世代研究者挑戦的研究プログラムは、博士課程の学生を対象として、専門知識に加え幅の広い分野への関心と理解を有するトランスディシプリナリ人材を育成し、グローバル・シティズンとしての素養や順応力を獲得することを目指している。

このプログラムの特徴の1つとして、未来をデザインする国際会議「慶應コロキアム」がある。慶應コロキアムは、国境や分野を超え最先端研究とクリエイティビティを通して社会課題に取り組み、20年後の社会を描くことをビジョンとしている。学生を中心とした実行委員会を設置し、本プログラムに参加する博士課程の学生を主な対象としている。

記念すべき第1回慶應コロキアムは、2022年3月6日に開催された。当初、三田キャンパスおよびオンラインによるハイブリッド形式の会議として準備を進めていたが、新型コロナウイルス感染症の第6波の最中であったためオンラインのみの開催となった。今回の慶應コロキアムは、インスピレーショナルトーク(基調講演)、パネルセッション、博士学生の研究発表、参加学生が分野を超えて社会課題について議論を深めるコ・クリエイションの4つのセッションで構成され、国際会議であるため全て英語で開催した。

北野宏明博士(左)によるインスピレーショナルトーク

会議の準備段階で、実行委員会の学生達の声として博士号取得後の進路についての関心が大きかった。欧米諸国と比較して、日本では博士号が産業界や社会から価値が過小評価されていることの表れである。そのため、研究の第一線で活躍し、企業の経営者かつ起業家でもある北野宏明博士(株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長)によるインスピレーショナルトークで会議を開始した。この講演では、サスティナビリティを中心とするグローバルな課題への取り組みや、壮大な目標を掲げて忍耐強く活動を続けることで達成できるムーンショットチャレンジについて、北野氏が取り組んだ事例が紹介された。研究者と分野を開拓して社会に貢献する起業家を両立することの重要性は、学生達にインパクトのあるメッセージとして伝わった。

パネルセッションは、ポストパンデミック社会のあり方をテーマに、米国スタンフォード大学で教鞭をとる未来学者のポール・サッフォ氏、米国コロンビア大学教育学部のオキタ准教授、情報経営イノベーション専門職大学の中村伊知哉学長をパネリストに迎え、デジタルトランスフォメーション(DX)と持続可能性、ロボットやAIが多くの作業を担う時代での新しい働き方、そして来る新しい社会のための教育変革について議論が交わされた。特に印象に残った点は、現状の社会の歪みや衝突および今後も起こりうるパンデミックに人類が対応していくために、新しいグローバルな文明を構築することが強く求められているという提言であった。

博士学生の研究を紹介するリサーチ・ファストフォワードというセッションでは、「エネルギーと持続可能性」、「健康」、「芸術、文化、教育」、「ライフスタイル」、「社会」の5つのカテゴリーに集約して、D3(博士課程3年)及びD4の学生31名による1分プレゼンテーションが行われた。様々な研究科の学生が同じ大きな社会的な貢献に向けて研究をしていることが感じられるセッションとなった。

今回の慶應コロキアムのハイライトである、コ・クリエイションのセッションでは、参加学生が社会課題について自身の研究と結びつけながら活発な議論を交わした。取り上げた社会課題は、エネルギー問題、環境問題と気候変動、食料・水不足問題、ジェンダーなど差別・格差問題、教育問題、人口動態と社会福祉、社会・生命倫理、感染症、宇宙問題の9つのテーマである。

このセッションは、Gather.Town と呼ばれるプラットフォーム上で実施され、異なる研究科に所属する学生との出会いと、今後の研究コラボレーションの創出を目指したセッションとなった。このセッションは、研究科間の学生交流を促進するために非常に効果があり、慶應コロキアム後も学生同士のコミュニケーションが続いている。
来年度以降は、徐々に参加者を塾外にも広げ規模を拡大していきたい。

Gather. Town 上のコ・クリエイションのセッション

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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