【その他】
【社中交歓】椅子
2022/04/21
椅子を次に渡す
来たる2022年6月14日、三谷産業の株主総会において取締役会長の椅子を辞する。
さしたる深い意味はないが、周囲からは何故、何かあったのと頻繁に問われて、かえって戸惑っている。私は他にも幾つかの仕事を持っており、その内の一社を辞任するだけで他は変わりない。常々息子である社長には取締役の席が定員一杯で、若い人を登用する際は席を空けるよと言っていたので、若手の成長を喜んでいる。私の席と、苦労を共にした副会長の席とを空けることで40代前半の取締役が2人誕生する。何故か会社からは特別参与なる次の席を与えられ、役職は勝手に名乗ってとのこと。池の主の鼈(すっぽん)みたいになりそうなので、肩書を「ぬし」にしようかと思っている。26歳から副社長を9年、社長17年、会長15年と働き、ようやく一息つけそうである。
とはいえ、何もしないのはボケの始まりとばかり自分で興せる事業のビジネスモデル作成に試行錯誤、上手く行きましたら拍手ご喝采のほどよろしくお願いいたします。
安楽椅子探偵の周辺に
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村上 貴史(むらかみ たかし)
ミステリ書評家・1987法
依頼人や助手などを通じて得た情報のみに基づき、現場に赴かずに謎を解く安楽椅子探偵。バロネス・オルツィの《隅の老人》シリーズはその代表例として知られ、早川書房や東京創元社の文庫で親しんだ方も多いだろう。私もその1人だが、それら日本独自編集の短篇集から受けた印象は、後に得た情報で修正することとなった。まず、著者名と思っていたものは、肩書き(女男爵=バロネス)と名前の組合せだった。フルネームが47文字(創元推理文庫解説)というのも衝撃。長すぎるので本稿では割愛。また、この老人(名前の記載なし)は事件現場や法廷に足を運んで能動的に情報収集していて、実は全く安楽椅子探偵らしくないのも後天的知識だ。さらに、前述の文庫でいずれも最終話となる印象的な短編(東京創元社版邦題「隅の老人最後の事件」)が、実は全38篇のうちの6番目の作というのにも驚いた。その他、書籍化順の逆転など、隅の老人の周辺には興味深いネタが多数潜んでいる。作品社から全短編を網羅した訳書が出ているので、御一読を。
人間椅子も良いけれど
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加藤 朋哉(かとう ともや)
株式会社 天童木工・2005理工、07理工修
椅子の座り心地について、一考してみよう。
座り心地の良い椅子と聞くと、どのようなものを思い浮かべるだろうか。柔らかなクッションに包み込まれるソファ? あるいは人間工学に基づいた機能的なワーキングチェア? もちろん個々の感覚なのでこの問いに正解などないが、身体に沿う曲線形状を持つことは座り心地の良さを生み出すひとつの要素で、家具のつくり手たちはこの点をどう実現するかに試行錯誤を重ね、各々の技術を改良してきた。
木の椅子に曲線を与える場合、①切削する、②蒸した後に曲げる、③薄板を重ねて型に入れる、などの加工方法が存在する(天童木工では「成形合板」と呼ばれる③の技術を主に用いている)。
やさしい曲線を持つ木の椅子は、長く着座しても疲れを感じにくい。天然材のためその木目には個体差があり、経年による表情の変化も愉しむことができる。適切な修繕を施すことで永続的な使用も可能である。長く愛用できる「良い椅子」をご検討の際は、ぜひ心に留めてみてほしい。
玉座と軒轅鏡
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桐本 東太(きりもと とうた)
元慶應義塾大学文学部教授
中国は明・清時代の首都であった北京の中央部に位置した宮城である紫禁城。その中心にあったのが、皇帝の即位式や葬儀が行われた太和殿であり、宮殿の中央部には皇帝の玉座が設けられていた。この玉座、皇帝であればだれでも安心して腰を下ろすことができたかというと、事情はそう単純ではなかった。それというのも玉座の真上に軒轅鏡(けんえんきょう)という装置が仕込まれていたからである。
軒轅鏡とは龍がくわえた鉄の玉であり、もしも玉座に皇帝の位にふさわしくない者が着席すれば、龍はたちどころにその鉄玉を落下させ、その人物を死に至らしめると信じられていたのである。現実には鉄玉の落下する可能性はなく、それは逆に玉座に座りさえすれば誰もが皇帝であることを保証する装置となっていたが、清朝崩壊後、皇帝に即位しようと試みた袁世凱(えんせいがい)が玉座の位置をずらせたことに象徴されるように、それはなお一定の規制力を持っていた。皇帝となるのも楽ではないのである。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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三谷 充(みたに みつる)