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【Keio Report】慶應義塾らしいスポーツ・インテグリティの 確立へ向けて

2022/02/17

  • 山本 信人(やまもと のぶと)

    慶應義塾体育会理事、法学部教授

慶應義塾体育会は日本の学生スポーツの先駆者として、1892(明治25)年に7部で発足しました。2022年現在、体育会は43部59部門から構成されています。近年体育会に所属する部員数は2700名前後で推移しており、その数は全塾生の1割にあたります。

学生スポーツの本旨とは

慶應義塾体育会会則の第2条「目的」にはこうあります。「本会はスポーツにいそしみ、義塾の発展に寄与しようとする塾生が、先輩塾員の協力のもとに、技をみがき、体位の向上をはかるとともに、品性を陶冶し、学生スポーツの本旨を全うするため、協同することを目的とする」。

ここに明記されている学生スポーツの本旨とは何でしょうか。体育会理事会ではこのことを2021年度に何度も議論してきました。体育会部員はともすると、毎日の部活動に没頭してしまいます。そうした部員たちにいまいちど、塾生の模範として学生スポーツに携わる意義を考え実践してほしいという願いを込めて、スポーツ・インテグリティを体育会の軸に据えることにしました。

インテグリティは一般に、誠実、真摯、高潔を意味します。体育会理事会では、抽象概念ではなく、慶應のスポーツ・インテグリティは義塾の基本理念に由来すると考えています。それは「気品の泉源、智徳の模範」です。この理念を基礎にして、小泉信三は「練習は不可能を可能にす」という有名な言葉を体育会部員のめに残しています。しかも小泉は言います、「天才とは異常な努力をなしうる人だ」と。選手、マネージャー、スタッフからなる体育会部員に求められている姿勢といえましょう。

天使の声

このようにスポーツ・インテグリティを体育会理事会として議論していた最中の21年夏、体育会馬術部出身の大先輩である横田剛氏(1966年経済学部卒、横田氏の言葉をお借りすると馬術部卒)から、ご自身が関係する非営利団体Give2Asiaを通して体育会指定寄附をいただけることになりました。

横田氏は慶應義塾高校時代から馬術を始め、日吉馬場に日参し鍛練を重ねました。文字通り満身創痍となりながら、馬との生活を送り、大学4年生時には第8回全日本学生王座決定戦の優勝メンバーという経歴をお持ちです。大学卒業後は慶應ビジネススクールの第1期生として勉学に勤しみ、1975年から2年間は馬術部監督も務められました。78年に渡米し、80年には教育団体「イントラックス」をサンフランシスコに設立し、日米の文化交流、教育プログラムを展開してこられました。

42年間におよぶアメリカでの生活に区切りをつけ、横田氏は現在、三田キャンパスの近くにお住まいです。幸いにも昨年末に2度ほど横田氏とは直接お目にかかる機会がありました。小柄でありながら、体育会のことになると身を乗り出して熱弁を振るわれました。ご自分が体育会に育てられた、それがその後の人生の礎になっている。義塾があっての体育会、体育会あっての各部。福澤精神の「新しさ」を体育会として再発見し、体育会部員を塾生の模範としてプライドを持つような環境を整えてほしい。歴史と理念が大切だ。その口からは義塾愛、体育会愛が溢れ出てきます。

同時に、横田氏の人生経験から、デジタルの時代の「現在」、ますます人と人とのつながりは重要性を増している点も強調されました。そのためには体育会は部活動を通してそれを実現し、新しい時代へ向けてのあるべき姿を明確にすべきである、との励ましがありました。これを実現するためには、体育会として外へ向けての発信力を高める必要あり、という苦言もいただきました。義塾体育会の魅力を広報することで、塾生、塾員のみならず、社会的にその存在を認知してもらう。この努力が不足しているというのです。この点は体育会としては的確に痛いところを衝かれたという思いがあります。

スポーツ・インテグリティ教育へ向けて

横田氏からの寄付金を原資として、体育会は各部署と協力して2022年度からスポーツ・インテグリティに関する教育を提供することになりました。そのためのワーキング・グループ(WG)を構成しました。その陣容は、坂井利彰・体育研究所准教授(体育会副理事、体育会庭球部監督)を主幹とし、石田浩之・スポーツ医学研究センター教授(大学院健康マネジメント研究科委員長)、梅津光弘・商学部教授(大学院経営管理研究科および健康マネジメント研究科兼任教授)、加藤貴昭・環境情報学部教授(体育会副理事)です。

WGで議論してきたスポーツ・インテグリティ教育の具体的な案の一部は、既に動き始めています。その基本理念は、「全塾で取り組むものとして大きなピクチャーを描く」、「届けたい人に届くような仕組みで運用を考える」の2つです。

全塾で取り組むこととしては、義塾に「眠っている」スポーツ、スポーツ医学、スポーツ・サイエンスに関連した、教員という名の人的資源を発掘し、結集する必要があります。もちろん三田体育会の塾員をはじめとして、スポーツに関連した環境で活躍している方々の協力も不可欠です。義塾の歴史そのものがインテグリティである点も忘れるわけにはいきませんので、義塾史、体育会史に関する教員にも参加を呼びかけます。

届けたい人に届く仕組みとしては、ひとまず22年度に寄附講座開設の前段階としての実験授業が行えるよう、教養研究センターに申請することになりました。スポーツ・インテグリティ教育は決して体育会部員に対してだけではなく、一般塾生にも大いに関心をもって参加してもらいたいと考えています。教育と銘打ってはいますが、スポーツ・インテグリティは塾生が自ら身につけ実践するものです。塾生の主体性が求められる領域であり、「半学半教」という義塾の基本理念を具体化する試みでもあります。

このように体育会は、慶應義塾らしいスポーツ・インテグリティを模索し、激変している学生スポーツのあるべき姿を社会の先導者として示していく大きな一歩を踏み出しています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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