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【時は過ぎゆく】創立100周年を迎えた書道会──伊藤公平塾長を迎えて記念展を開催

2022/02/10

記念展開会式にて
  • 宮本 和幸(みやもと かずゆき)

    三田書道会百周年事業実行委員長・塾員

應義塾大学書道会は1920(大正9)年に創立され、2020年に100周年を迎えました。当初予定した100周年記念事業はコロナ禍のためやむなく延期し、記念事業のうち100周年記念展をようやく2021年9月27日~29日に、中央区銀座のセントラルミュージアム銀座で開催することができました。

開催初日の27日には伊藤公平塾長をお迎えし、開会式を行いました。感染症対策のため簡素なかたちで進めることとし、出席者は都倉武之書道会会長(福澤研究センター准教授)他、顧問、講師、卒業生および学生幹部にしぼりました。式は100周年にふさわしく、福澤先生の軸「獨立自尊迎新世紀」前に集合し、都倉会長開会挨拶のあと、伊藤塾長よりご祝辞をいただきました。その中で、理工学部長時代に卒業証書に毛筆で署名するため、教え子だった書道会員から字形や運筆などのレクチャーを受け、何回も練習して大変ご苦労されたことをユーモアたっぷりに披露されました。短時間の式でしたが出席者一同、大変有意義な時間を共有でき感謝しております。

伊藤塾長にはその後、福澤先生はじめ慶應卒業著名人、歴代講師、学生、卒業生の墨蹟や書作品をゆっくりとご覧いただきました。

慶應義塾大学書道会は当初、塾生有志の会として組織され、当時の鎌田栄吉塾長、波多野承五郎先生などのご支援により交詢社翰墨会の乾淡江先生を講師として迎え、書の研究や講演会ほか活発な活動を展開しました。1922(大正11)年に塾当局へ届け出、正式団体と認められました。創立以来1,000名を超える会員が卒業し、現在は100名近い会員が書道会活動をはじめ学生生活をエンジョイしています。

2020年の100周年記念事業実施に向け、2017年に準備委員会を立ち上げ、記念展、祝賀会、記念誌発行、中国・西安市への書道歴史旅などを計画、準備してきましたが、コロナ禍のため延期を余儀なくされました。

2021年も予断を許さない状況が続きましたが、幸い秋口には収束に向かい、慎重に検討したうえで事業開催の方向となりました。しかしながら、祝賀会は対面式を避けてオンライン方式に変更、また書道歴史旅も同様にオンラインにて実施するなど、慶應義塾の方針に沿い、会員の安全・健康に配意して工夫を重ねました。

その中で記念展だけは、なんとかリアルに開催することができました。都倉会長はじめ書道講師の先生、学生、卒業生の幅広い協力を得て、社中一致の精神で企画、構成、準備を行いました。

会場構成は、学生と卒業生の書作品、歴代講師の作品、講師・学生・卒業生三者の合作(集作)を展示、特別展として「独立自尊の書」を併催し、合計で250点もの過去最多の展示数となりました。また、書道会100年の歩み(年譜、歴代会長・講師の事績、機関誌、学生時代の活動資料などの展示)をパネルや台上に展示し、フォトムービーを含め多角的に紹介することとしました。フォトムービー前には卒業生が陣取り、学生時代の思い出話に花が咲いていました。

特別展では、福澤先生をはじめ、先生の教えを受け継ぎ、社会を刷新、リードされた方々の墨蹟22点を紹介しました。福澤先生を除き五十音順に列記します(敬称略)。池田成彬、犬養毅、尾崎行雄、小幡篤次郎、門野幾之進、鎌田栄吉、小泉信三、佐藤春夫、釈宗演、高橋誠一郎、西川寧、馬場孤蝶、藤山雷太、松永安左エ門、武藤山治。また、福澤先生と勝海舟の書簡も展示しました。これだけの点数を一堂に展示できたことは稀有なことであり、所蔵品を貸与いただきました慶應義塾福澤研究センターはじめ関係各位にあらためて感謝を申し上げます。

文化審議会は2021年10月、改正文化財保護法で新設した登録無形文化財に、「書道」と「伝統的酒造り」を登録するよう文部科学省に答申しました。書道は漢字の伝来以降、中国の優れた技法を吸収し、平安時代には日本独特の「かな」表現も生まれ、和歌文化とともに発展したことが今回の答申につながったと思われます。生活文化における歴史的意義と芸術的価値が高いと評価されたことはプラス面ですが、一方日本生産性本部が発表しているレジャー白書では書道人口は減少傾向にあるとの指摘もあります。

慶應義塾大学書道会は創設時のスペイン風邪によるパンデミック、戦争、変動する経済社会状況など厳しい波を受けながらも、これまでの100年を諸先輩のご努力、チームワークで乗り越えて今日の隆昌を迎えています。新たな100年に向け学生、卒業生、関係者の力をあわせた「社中一致」により、後世にバトンタッチしてさらに発展させていく「自我作古」に取り組んでゆきたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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