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【社中交歓】『シンデレラ』

2021/12/23

ノイシュバンシュタイン城

  • 片山 彰(かたやま あきら)

    JATEX GMBH会長、ミュンヘン三田会会長・1965経

ミュンヘンに観光で訪れる日本人の多くは地理的に近いのでこのノイシュバンシュタイン城を必ず見学に訪れます。1864年以降城主であったルートビッヒ2世が大音楽家リヒャルト・ワグナーとも親交の深い関係にあった事も知られています。

シンデレラ城のモデルになったとも言われるノイシュバンシュタイン城ですが、ノイ(NEU)とはドイツ語で新しいと言う意味で、ルートビッヒ2世の親、マクシミリアン2世が建てたホエンシュバンガウ城、その城をドイツの中世の騎士の城の模範として新しく建てた城なのです。

ルートビッヒ2世は尊敬するワグナーが作曲したオペラ、ローエングリンを自分の若かりし頃と重ね合わせたのです。シュバンとはドイツ語で白鳥の事。シュバンガウ伯爵の紋章の水鳥でもあります。1866年にバイエルン地方はオーストリアと同盟を組み、覇権を試みるプロイセンと対峙するも敗北。以後、ルートビッヒ2世はバイエルン地方の主権者では無くなり、不幸な人生を歩む事となります。

灰かぶりとシンデレラ

  • 梅内 幸信(うめない ゆきのぶ)

    鹿児島大学名誉教授・1980文博

日本でシンデレラとして親しまれている童話は、本来フランス宮廷詩人ペローの『過ぎし昔の物語ならびに教訓』に収められたもので、ディズニーのアニメによって世界的に有名になりました。しかし、その原典は『グリム童話集』に採集された『灰かぶり』です。この童話では黄金の四輪馬車に変わるカボチャや美しい馬に変わる二十日ネズミ、それどころかガラスの靴も登場しません。主人公の灰かぶりは、金糸銀糸で織られた着物と絹と銀の糸で刺繡を施された上靴を与えられるだけです。両主人公とも、2人の義理の姉たちに意地悪をされるのですが、それに耐え抜きます。試練の後シンデレラは、王子との結婚後その姉たちにも幸運を分け与えます。反面、灰かぶりの幸運のお裾分けに与ろうとる義理の姉たちは、婚礼の教会に入る時に右目を、教会から出る時に左目を鳩によって突き出されて盲目になってしまいます。これは、一見残酷に見えますが、しかし罰を加えているのが鳩であることを考慮すると、天罰・天の摂理と解釈されます。

米国のシンデレラ

  • 馬場 聡(ばば あきら)

    日本女子大学文学部准教授・2000文

19世紀後半、ニューヨークはシンデレラに沸いた。大小さまざまな出版社が半世紀の間に200を超えるヴァージョンのシンデレラの絵本を断続的に刊行し続けたのだ。あの稀代の興行師P・Tバーナムも1850年にシンデレラ劇を上演し、好評を博したそうだ。不遇な少女が階級の階段を駆け上がるストーリーは、アメリカン・ドリームという言説と頗るなじみが良かったとみえる。

ヨーロッパの民話を手前みそに書き換える天才と言えば、ウォルト・ディズニーをおいて他にない。習作時代のウォルトは、1922年に短編アニメーション映画『シンデレラ』を製作している。なんとこの作品では舞台が近代的な住宅地に挿げ替えられ、かぼちゃの馬車の代わりにT型フォードがシンデレラを舞踏会に誘うのだから面白い。のちに自動車メーカーのシボレー社は、販売促進用のアニメーション映画『コーチ・フォー・シンデレラ』(1936)を製作して話題を呼んだ。ハイウェイをひた走るシンデレラとは、なんともアメリカらしい。

シンデレラ・コンプレックス

  • 森 さち子(もり さちこ)

    慶應義塾大学総合政策学部教授

「『きっとそのうちに変わるでしょう。』そう言ってシンデレラは、来る日も来る日も暖炉の灰を掃き出していた」。こうして耐えるシンデレラに依存的人格の特徴を見出し、コレット・ダウリングが女性の内的葛藤をシンデレラ・コンプレックスと名付けたのは1981年、今から40年前のことである。彼女は、自身の再婚体験と、自ら受けた精神分析の経験を生かし、米国で同時代に生きる女性の隠された心理を洞察した。自由獲得のためのフェミニズム運動が頂点に達した後、当時の女性の深層にあったものとは、自分の人生を変えてくれるもの、頼れる誰かを求める願望だった。表向きには活躍していても、潜在的には依存心を抱き、自立への不安や恐怖を自覚なしに抱えている。そのため、自身の能力、とりわけ創造性を十全に発揮できない葛藤が生じる。

そこから脱する道は、何かが起こるのを待つのではなく、自ら自己の変化と成長を促す主体になること、自ら王子様になることであると、そのコンプレックスから解放された彼女は、結んでいる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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