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【Keio Report】JST次世代研究者挑戦的研究プログラムの採択について──「未来社会のグランドデザインを描く博士人材の育成」を開始
2021/12/10
伊藤公平塾長は、慶應義塾アクションプラン2021-2025策定方針として「未来の先導者、グローバルシチズンとしての理想の追求」を掲げ、10年後、30年後、50年後の社会のあり方への教職員と塾生の当事者意識を徹底的に高め、未来先導に集中できる環境を整えることを宣言。未来の先導者としての塾生の教育の充実、研究者と塾生が大胆につながる先鋭的研究による世界が参照する新しい総合知の創成を重要テーマとした。
本プログラム「未来社会のグランドデザインを描く博士人材の育成」は、その中心的役割を担う優秀な若手研究者たる博士課程学生を対象に、学生たちが研究に専念できる生活環境を整え、また、自らの新しい発想で、研究あるいはキャリアの展開に挑戦できる自由な環境を大学の仕組みとして整備するものであり、科学技術振興機構(JST)が本年度から開始した次世代研究者挑戦的研究プログラムの1つとして採択され、本年10月から学生への支援を開始した。
慶應義塾では大学院14研究科がそれぞれ特徴ある教育、研究を進めている。いま世界が直面している課題、前例なき社会の模索と実現に向けては、技術革新だけにとどまらない総合力、人や社会の営みそのものを深く理解、洞察し、新しい価値を創造することが不可欠である。
ここに、慶應義塾の大学院教育の厚みが存分に発揮される大きな可能性がある。14の研究科はその成り立ちによって、学問分野、すなわちディシプリンを基盤とする人文学・社会科学系および自然科学・生命科学系の大学院と、ディシプリン横断型に社会課題の解決を強く意図する大学院があり、それぞれ、価値創造、新技術創成、新社会創生を目指し国際的に高いレベルで活動している。これほどまでに、深くまた領域を超えて幅広く活動する大学院が揃っている大学は、世界でもそれほど多くはない。最近話題となる世界大学ランキングでは、自然科学系に重きを置く大学が上位にくるように設計されているが、その先の社会をデザインするための総合知の創成には、これとは異なるモノサシが必要であり、塾長が掲げる未来の先導者としての理想の追求は、このことを明確に提示している。
慶應の大学院教育の厚みを活かすには、分散して活動する研究科をつなぐことが必要であり、本プログラムの策定に際しては、すべての研究科委員長に各研究科の現状を踏まえたこれからの目指すべき方向性について話を伺い、本プログラムの計画について検討する場を持った。それぞれがシャープな問題意識とそれに対する解決策を有し、研究科横断的な取り組みへの強い思いが共有されていた。
このプログラムでは、次の4つのコンピテンシー(能力、資質)の涵養を目指す。
(1)現場において解決すべき課題そのものを自ら発見できる能力・資質、(2)人文学・社会科学の蓄積に基づき、前例なき社会において価値そのものを創造する能力・資質、(3)理論の修学と研究を通じ科学技術や科学的知見を創成する能力・資質、(4)多様な関係者と議論や社会への働きかけを通じて社会資源の適切な配分を行い、多様性があり持続可能な社会を実現する能力・資質、である。このプログラムの骨子は、審査員からも高い評価を得、私学では最多となる年間263名の博士学生への支援を得ることとなった(全体で9番目)。
本プログラムでは、分野を問わず、真摯に自らの研究課題に取り組み、多様なキャリアパスにおいて活躍するために求められる能力育成の取り組みに自律的に参加する、意欲ある博士後期課程学生が選抜の対象となる。国内・外の学生、各学年80名~90名の学生が選抜される(一定以上の収入を得ている者や国費による留学生は支援対象とならない)。これにより、将来の学術研究を担う優れた若手研究者を養成する制度として、日本学術振興会が行っている特別研究員制度の採用者と合わせ、博士課程学生の20~25%が生活費支援を含む博士学生育成支援制度の対象となる。
本プログラム支援対象者には、研究費(基礎額・年30万円)と生活費相当額(年220万円)が補助される。さらに、海外や国内の機関や企業でのインターンシップ、フィールドワークなど大学の外へ積極的に出かけていく取り組み、あるいは、分野を超え融合させるなど、研究を意欲的に発展させる取り組みに対しては、挑戦的取り組み費として最大年100万円の追加の研究費が支給される。このような研究科の枠組を超えた評価体制として全塾選抜委員会が組織され、各研究科を代表する教員が評価を行っている。
博士学生たちが、研究やキャリアの展開に挑戦できる環境をキャリア開発・育成コンテンツと呼ばれる仕組みとして整備することも大学の重要な役割である。これは、(1)文理・超領域対話の場、(2)社会との対話の場、(3)人間交流・コロキアム、(4)グローバル・リーダーシップ、(5)海外交流、(6)メンタリング、の6つの要素に分けてコース等を提供する。今年度から、社会学研究科が中心となる「アート表現・デザイン・コミュニケーション導入コース」、システムデザイン・マネジメント研究科が中心となる「グローバル・リーダーシップ導入コース」、経済学研究科が中心となる「産学連携人材育成フォーラム(データサイエンス)」、メディアデザイン研究科が中心となる「慶應コロキアム」が開始される。
また、社会のあらゆる場面で活躍するためのコアスキル修得を目的とした科目として、「知財戦略」「倫理、個人情報保護」「研究(データ)管理、情報活用」の動画がいつでも視聴できるようになる。
この博士人材の育成は、緒についたばかりである。本プログラムも、JSTからの支援は3年程度で終了し、その後は、グローバルな研究力、社会のあらゆる場面で活躍する博士人材を送り出すことのできる大学に、国からの支援の資源を集中させる予定とされている。慶應義塾のもつ強みや厚みを発揮し、大学院からグローバルに活躍する人材を持続的に送り出していくためには、あらゆる社会の構成メンバーとの対話と協調が不可欠である。皆さまからの忌憚のないご意見とご支援を賜りたくお願いする次第である。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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武林 亨(たけばやし とおる)
博士後期課程学生支援プロジェクト事業統括、慶應義塾大学研究連携推進本部長、医学部・大学院健康マネジメント研究科教授