【その他】
【Keio Report】全塾ワクチン職域接種終了報告
2021/11/09
今般、2021年9月15日をもって、慶應義塾におけるワクチン職域接種を終了した。のべ58日間で、4万9320名に対して合計9万8026回の接種を行ったのでその概要をここに報告する。
伊藤公平塾長が就任して3日後の5月31日、政府から企業や大学を対象とした新型コロナウイルスワクチン職域接種についての発表があった。政府としては接種券がまだ発行されていない若者も含めてワクチン接種を強力に推進するための施策である。そこで、しっかりとした名簿に基づいて接種歴を確認できる団体に対して、申請に基づいてモデルナ社製のワクチンが供給されることになった。伊藤塾長の「コロナ禍で奪われた塾生のキャンパスライフを奪還したい、塾生だけでなく広く学生たちの未来を取り戻したい」という強い思いを受けて、我々は慶應義塾においてもワクチン職域接種を行うことを決断した。
ワクチン接種は個人の希望に基づく任意のものであり、接種だけで全てを解決できるわけではないが、秋学期、さらには2022年度に向けて大学の機能を取り戻す大きな1歩になると考えた。しかしながら、全塾の通信教育課程も含めた学生、非常勤も含めた教職員とその同居ご家族、各キャンパス関係者、文部科学省からの要請によるその他の大学生なども含めるとおよそ5万人が対象となることが予想された。
当時、慶應義塾大学病院ではコロナ患者の診療、新宿区の住民ワクチン接種に加え、東京2020におけるメインスタジアムを中心とした救急医療を担うことになっており、病院スタッフだけで5万人の接種を行うのは到底困難な状況であった。しかし、この時、医学部基礎研究者、三四会、関連病院会、看護医療学部、紅梅会、薬学部、KP会など慶應関連医療従事者の皆様が、塾生のためにすぐさま支援の手を差し伸べてくださったことで、即決することができた。
ワクチン接種は医療従事者だけでは円滑に実行することはできない。三田キャンパスをはじめとする事務部門の皆様が瞬く間に動いてくださり、慶應義塾社中一丸となった支援であっという間に接種体制が構築された。我々が文部科学省にワクチン供給を申請した時には、すでにITC本部が非常に質の高い予約システムを構築していたことには良い意味で本当に驚かされた。
会場は信濃町や芝共立キャンパスに近く、関連病院の1つである済生会中央病院が万が一の時の救急医療をお引き受けくださったこともあって三田キャンパス南校舎を使用することとなった。信濃町キャンパスで約4500名の医療者接種を経験し、課題を熟知した病院感染制御部、三田の保健管理センター、管財部の皆様が、会場の理想的なレイアウトを作成し、総務部が関係省庁と緊密な連携をとった。学生部は自らのネットワークでワクチン接種を必要とする他大学への呼びかけを積極的に行った。さらに予約受付センターを設置し、ワクチン接種ポータルサイトを開設して、情報提供と予約受付を全面的に行った。まさに慶應義塾社中が一丸となった時の底力、ありがたさを痛感した次第である。
6月7日に職域接種の実施を発表、9日には伊藤塾長が塾生に向けたビデオメッセージを発信し、全塾ワクチン職域接種の意義や今後の注意点を丁寧に伝えた。その当時、政府には予想外の職域接種申請が殺到し、急速にワクチン供給不足状態が発生していた。各大学、各企業で予定されていた職域接種の多くが開始の見通しが立たない中で、慶應義塾は職域接種解禁初日の6月21日から、全国17大学の1つとしての職域接種を始することができたのも全塾一丸となって極めて迅速な対応、申請ができたからである。
午前中は薬剤師、看護師10名が集中的にワクチンのシリンジ充填を行い、午後から看護師23名、医師11名体制で1日2,000~2,800名の接種を安全かつ円滑に行うことができた。我々は、何よりも安全な接種を行うことを第一に考え、慶應義塾大学病院の経験豊富なリーダー医師、リーダー看護師を連日配置して、体調不良者の対応にも万全を期す体制をとった。全期間を通じて6名が救急搬送、1名が経過観察のための入院を必要としたが、結果的に重篤な健康被害には至らず、総じて安全な接種が行えたと考えている。
医学部生のアンバサダーが、同じ世代の学生諸君の不安に答える接種体験談やQ&Aを作成し、さらに予約、接種状況を広報室が速報で伝えたことで、一定の安心感も得られ、最終的に学生の8割近い接種率が達成できた。一方で、様々な事情で接種を希望しない人たちに同調圧力がかからないよう「ワクチンハラスメント防止」のメッセージも発信しながら、「希望者には、迅速かつ安全な接種を行う」ことを目標とした。
最終的に慶應義塾関係者約3万5000人に加えて、海外留学を予定し留学先からワクチン接種を要請されている他大学学生、臨床実習を控えた医療系学生など国公私立大学のべ44校、約1万5000人の慶應義塾以外の学生等にも接種を行うことができた。これを主導した伊藤塾長のもとには、多くの感謝の声が寄せられている。
いよいよ予定された接種が終了する直前の8月26日、ワクチンへの異物混入問題が報道され、残念ながら慶應義塾にも当該ロットが供給されていた。接種を一旦中止して対応したが、すでに約4300名に当該ロットからの接種が行われていたことが判明した。
慶應義塾では、薬剤師、看護師が慎重に目視で確認しながらワクチン充填作業を行っているので、異物が混入したワクチンが接種された可能性は極めて低いものと考えている。必要のない異物が体内に入ることはあってはならないが、仮に目に見えないレベルの金属が筋肉内に注入されたとしても重大な健康被害が生じる可能性は極めて低く、実際に異物混入と関連した健康被害は現時点で認められていない。
慶應義塾では予想を超える高い接種率が達成され、日本全国を襲った感染拡大第5波の中でも、感染者数が抑えられている(グラフ参照)。こうしたデータに基づいて秋学期は春学期の感染防御体制を踏襲しつつも、慎重に対面授業を増やし、これまで停止していた3カ月未満の海外短期留学や海外での学生の学術活動などを一定の条件下に再開していく方針である。
今後、変異株の動向によっては、再び感染拡大が起こる恐れがあることを念頭におきつつ、これまで我々自身が習得した感染防御の様々な工夫を生かしながら、塾生のキャンパスライフを取り戻して行きたい。今回のワクチン職域接種をオール慶應体制で支えて下さった全ての皆様のご尽力にあらためて厚く感謝を申し上げてご報告とさせていただきたい。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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北川 雄光(きたがわ ゆうこう)
慶應義塾常任理事