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【Keio Report】コラボレーションを起動する──KeMCoグランドオープン企画「交景:クロス・スケープ」
2021/08/25

2021年6月18日、慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)のグランド・オープン企画「交景:クロス・スケープ」が閉幕した。「文字景──センチュリー赤尾コレクションの名品にみる文と象」では、あらたに寄贈を受けたセンチュリー赤尾コレクションの優品と、塾収蔵の貴重書とを合わせて文字文化の展開を辿り、「集景──集う景色:慶應義塾所蔵文化財より」では、塾収蔵美術作品の名品から、人々の繋がりを背景に持つ作品を選び紹介した。これら2つの展覧会に、国際シンポジウム「本景──書物文化がつくりだす連想の風景」を加えた3企画を中心としながら、塾内外のチームと共同して、ミュージアムの可能性を探る実験をさまざまな形で展開した。KeMCoは、慶應義塾における分散型ミュージアムの「ハブ」となること、また、文化財をめぐる交流を生み出すことをミッションとしているが、その実践のひとつの形を今回、提示できたのではないかと考えている。本稿では、コラボレーションという観点から、グランド・オープン企画をレポートしてみたい。
Keio Culture Pass
KeMCoのグランド・オープンと連動して、三田キャンパスでは、アート・センターのアート・スペース(南別館)と三田メディアセンター展示室(図書館新館)で展覧会が開催された。アート・スペースの展示は「Artist Voice I: 河口龍夫 無呼吸」。コロナ下の状況を正面から受け止め、作品制作を実践した河口龍夫の新作を中心に展示した。三田メディアセンターでは、「文字景」のカウンターパートとして「(西洋)文字景──慶應義塾図書館所蔵西洋貴重書にみる書体と活字」が、松田隆美(文学部教授/KeMCo機構長)の監修で開催された。
KeMCoでは、3館を巡る共通チケット「Keio Culture Pass」を企画。展覧会をつなぎ、三田キャンパスに点在するアートとカルチャーの拠点を浮かび上がらせることを試みた。
Keio Object Hub
4月14日、開館に先駆けて「Keio Object Hub(KOH)」が公開された。KOHは、慶應義塾の文化コレクションを一望できるウェブサイトである。リリース時点では、福澤研究センター、文学部民族学考古学専攻、メディアセンター、美術品管理運用委員会と連携し、約11,500件の文化財が登録された。さらに5月には、国の分野横断型統合ポータル「Japan Search」との連携を開始。慶應義塾と全国の文化財をデジタル環境で結びつける基本的な形を整えた。みなさまにはぜひ、Japan Search で「福澤諭吉」と検索してみていただきたい。
くずし字AI×中等部ワークショップ
歴史資料を読み解くために必要な「くずし字」の翻刻は、AI技術によって大きな変革期を迎えている。「文字景」展では、人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)の協力を得て、くずし字認識AIを搭載したCODHのモバイル・アプリ「みを(miwo)」をはじめて一般に公開し、アプリを利用したワークショップを慶應義塾中等部の書道部、美術部の生徒と行った。ワークショップは、くずし字を体験的に学びながら作品を鑑賞した後、KeMCo StudI/O のファブリケーション機材を使って気に入った展示作品の2次創作を行うという仕立て。中等部生の作品は力作ぞろいで、その発想や造形力に驚かされた。
KeMCoMプロジェクト
展覧会やイベントをさまざまな人とつないでゆく際に大きな力となったのが、8階のKeMCo StudI/O(ケムコ・スタジオ)を拠点に活動する「KeMCoM(ケムコム)」だ。KeMCoMは、専攻分野やキャンパス間の垣根を越えて活動する塾生のチームで、塾生ならではの視点と文脈から、文化・芸術とファブリケーションの新しい可能性を探求している。グランド・オープンには、「Kawaiinfo」(かわいい視点で、気軽に感じられるアートをSNSで発信)、「3D Virtual Exhibitions」(バーチャル空間におけるKeMCo体験)、Augmented Aesthetics(拡張される美的「感覚」)の3企画を出展した。塾生の皆は1日も欠かさずKeMCo StudI/O に詰め、自分たちの企画だけではなくスタジオのコンセプトや展覧会の見所を説明してくれた。また、中等部とのワークショップではチューターを務め、「集景」ギャラリー・トークでは、番組構成と出演を一手に担っている。
ここまで、駆け足にグランド・オープンを振り返ってみたが、KeMCoは、展覧会だけではなくその関連プログラムが一体となって、ダイナミックなコラボレーションを起動してゆく場であることを実感した2カ月間だった。次回の企画は、「オブジェクト・リーディング:精読八景」。三田キャンパスの8部門が連携する展覧会で、8月16日から開催される。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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本間 友(ほんま ゆう)
慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師