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【社中交歓】牡丹

2021/06/01

春爛漫の長谷ぼたん園

  • 沼田 廣(ぬまた ひろし)

    株式会社丸石沼田商店取締役会長、青森三田会副会長・1973政

青森県では、雪解けと共に季節の花が次々と咲き乱れます。「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景」にも選ばれた弘前公園の桜が花吹雪となって散っていくと、続いて咲き出すのが南部町の長谷ぼたん園の8千本もの牡丹の花です。これは、隣接する恵光院(元長谷寺の塔頭)の檀家の方々が総本山である奈良県の長谷寺から譲り受けた牡丹の苗木を植えたのが始まりと伝えられています。その後、南部町が「1人1本」をキャッチフレーズに町を挙げて園内整備に取り組み、今では3万3千平米(東京ドームの7割の大きさ)まで拡張され130種類もの色取り取りのゴージャスな牡丹の花を咲かせています。

花の王といわれる牡丹が咲き誇るさまは、正に春爛漫という言葉が相応しく東北随一と称されています。南部町観光協会に聞きましたら、見頃は5月下旬から6月上旬の約2週間ですが、今年は開花が少し早まるかも知れないそうです。私は、奈良の長谷寺の牡丹も見ていますが、本家と比べても遜色なく訪れる人の心をきっと和ませてくれるでしょう。

黒い牡丹

  • 山﨑 妙子(やまざき たえこ)

    山種美術館館長・1984経

速水御舟(1894〜1935年)は、明治末期から昭和の初めにかけて日本画壇を駆け抜けた天才画家。40年という短い生涯であるが、色彩豊かで装飾的な花鳥は彼の一貫したモチーフだった。ところが、1930(昭和5)年の渡欧を境に新たな様式を模索するようになる。中でも注目されるのは、1934(昭和9)年に制作された一連花卉(かき)図。これらは水墨を基調として淡彩を加えたもので、いずれにも彼の卓越した技術が発揮されている。

特に、この《牡丹花(墨牡丹)》において、墨で描かれた花には、和紙の材質と墨のにじみの効果を活かした絶妙な表現が見られる。御舟の成熟した技術がいかんなく表された、味わい深い作品といえよう。同門の画家によれば、御舟は紙に礬水(どうさ)( 膠(にかわ)と明礬(みょうばん)の水溶液で基底材のにじみ止めなどに使うもの)を引いて描き、にじませたい部分のみ熱湯で礬水を抜くという秘技を使っていたという。その結果、「黒い牡丹」はどんな色彩よりも艶やかにふっくらと描かれたのであろう。

牡丹の燈籠(とうろう)

  • 宮 信明(みや のぶあき)

    早稲田大学演劇博物館招聘研究員・2003文

水の流れも止まり、草木も眠る丑三つ時。カランコロン/\と駒下駄の音を高く響かせ、お露の幽霊が恋焦がれた新三郎のもとへと夜ごとにあらわれる。髪は文金の高髷に結い上げ、着物は秋草色染めの振袖に燃えるような緋縮緬(ひぢりめん)の長襦袢、先に立つ女中お米の手には、縮緬細工の牡丹の花をつけた燈籠がさげられている。綺麗なほどに、なお怖ろしい。

三遊亭円朝『怪談牡丹燈籠(かいだんぼたんどうろう)』は演芸界のみならず、坪内逍遙や二葉亭四迷らの言文一致体小説をはじめ、演劇や映画など日本の文化史に大きな影響を与えてきた。昨年もNHKでテレビドラマ化されたばかりだ。日本の三大怪談のひとつに数えられる、この怪談噺の最も重要なモチーフが、演題にも採用されている牡丹の燈籠であることはいうまでもない。

明治25年7月に歌舞伎座で劇化上演された際には、牡丹の造花を添えた鼠色の大きな燈籠が東京中の氷屋にかけられ、23日の川開きの夜には牡丹燈籠2千個が大川に流されたという。その美しさ、その妖しさは、いかばかりであっただろうか。

牡丹を狩る

  • 菅田 悠介(すがた ゆうすけ)

    NPO法人MOTTAI 代表理事・2019環

牡丹は猪の隠語である。肉食がタブーであった日本にて、隠れて食べるために生まれたものだ。そんな牡丹肉の魅力とは何であろうか。

大学2年から狩猟を始めた私が思う魅力は、脂身の美味しさだ。冬を越えるために乗った、分厚く真っ白な脂身。熱を入れ半透明になったそれを食べると、脳にくるほどの強烈に濃い旨味と自然な甘みが口に広がる。そしてこの旨味と甘みが、生姜、大蒜(にんにく)、葱等の薬味や味噌や塩と抜群に合うのだ。

自然の中で育った脂身の美味しさこそが牡丹肉の魅力なのだが、気をつけなければならないのは個体差である。美味しい肉は美味しいが、不味い肉はとことん不味い。特に発情期のオスはケミカルな味が脂身に染み付いていて、本当に同じ肉であるのかと驚く。運的な要素も牡丹肉の魅力でもある。

猟師・農家が激減し、獣害が増えている現在、獣肉を食べることは自然環境を守ることにもつながる。食べることで社会貢献にもなる牡丹肉、一度試してみてはいかがであろうか。



※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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