【その他】
慶應義塾の2020年度のコロナ対応 ③緊急支援
2021/06/17
1.突然やってきたコロナ禍
横浜港におけるクルーズ船での新型コロナウイルスの集団感染が慌ただしく報道されたのは、2020年2月であったが、慶應義塾には病院と、米国にはニューヨーク学院があることもあり、かなり早い段階からこの問題の対応にあたってきた。2月の大学入試を迎える前には、塾長および常任理事、塾監局長を中心とした新型コロナウイルス感染症対策本部も設置された。
その後、コロナ禍は次第に全国各地へとまん延していき、2020年4月7日には、1回目の緊急事態宣言が発出された。寄付や募金活動に対応する義塾基金室には、次第にコロナ対策を使途とした寄付についての問い合わせが塾員や三田会などから寄せられるようになり、当初は使途指定寄付として受け入れていた(趣旨が合致する内容の寄付は後に緊急支援に統合)。その後、「塾を支援したい」との声は、さらに高まり、塾生への支援を柱とする「慶應義塾大学修学支援奨学金」、医学部・病院でコロナ対策の前線に立つ医療スタッフへの支援ならびに医療体制の維持・強化を目的とする「慶應義塾大学病院医療支援資金」を、それぞれ受け皿に、基金室が担当部門となって寄付を受け付けていくことになった。
とりわけ医療支援については、岩沙弘道議長をはじめとする義塾評議員会の皆様の力添えが契機となった。また、全国の三田会に向けた寄付の呼びかけにおいては、菅沼安嬉子慶應連合三田会会長のリーダーシップによるところが大きかった。
基金室は、緊急事態宣言発出後、4月末までは義塾の方針に沿い、室員全員が原則として在宅勤務、5月中は出勤数が週1回程度に抑制されていた。これにより、従来のように寄付申込用紙の郵送等によるやり取りが十分に行うことができなくなると予想されたため、急遽、オンラインでの寄付申し込みを軸とした緊急支援への呼び掛けを基金室ウェブサイト上で実施することとなり、5月初頭に専用ページを公開した。
2.緊急支援の全体像
今回のコロナ禍に対する緊急支援は、塾生への支援を柱とするものと、医学部・病院への支援を目的とするものとに大別される。病院への支援については、すでに保有する篤志家からの大口寄付による緊急医療体制支援積立金(『2019年度事業報告書(慶應義塾の活動と財務状況)』45頁)の一部を、まずは有効に使わせていただいた。その後、前述の「慶應義塾大学病院医療支援資金」への寄付が始まり、2021年3月末時点で、984件、総計641,233,233円となった。また、内外の三田会や個人・法人・団体等から医療機材、防護具、マスク、飲食物などの現物寄付も多数いただいた。
他方、修学支援に関しては、2020年5月1日、慶應義塾ウェブサイト上に長谷山彰塾長からのメッセージとして、経済的理由から修学の継続が困難になった塾生に対して、国の修学支援制度や日本学生支援機構などによる公的奨学金とは別に、慶應義塾大学修学支援奨学金、2000年記念奨学金、慶應義塾維持会奨学金など、総額約240億円の奨学基金を積極的に活用し、加えて、緊急に奨学金を5億円程度増額し、1人当たり最大40万円の経済支援を行うことが示された。(https://www.keio.ac.jp/ja/news/2020/5/1/27-69699/)
この財源の一部となった「慶應義塾大学修学支援奨学金」に対する寄付は、2021年3月末時点で、1,119件、総額107,820,795円となった。また、慶應義塾維持会常任委員会の英断により、2020年度の維持会への寄付150,214,751円を修学支援奨学金に充当させていただいた。これらに加え、先の塾長メッセージにあるような義塾が保有する他の奨学基金の運用益と経常予算によって修学支援奨学金を用意することで、経済的に困っている塾生に対して迅速、かつ、十分な支援を行うという、当初の目標は、ほぼ達成することができた。
なお、修学支援奨学金に先立ち、2020年5月より始まるオンライン授業に必要な通信環境の整備が困難な塾生に対して、1万5千円の補助金を支給した。慶應義塾では、すでに高等教育の将来を見据え、オンライン授業の質を高めるべくさまざまな施設・設備・情報システム環境の整備に人的・経済的資源を投入してきており、2020年度にも授業支援システムや遠隔会議システムの拡充に多額の投資を行った。初期の段階では、小さなトラブルはあったと思われるが、教職員および塾生の英知と努力のおかげで、上述のようなシステムを使いこなすことで、春学期のオンライン授業、秋学期のハイブリッド型の授業、それに教職員による日々の業務が、なんとか円滑に行われてきた。
3.感謝の言葉
このように、今回の緊急事態にあたり病院および塾生のためにと、多くの塾員・教職員、法人や三田会をはじめとする団体から寄付をいただいてきた。また、そうした動きは、塾生の保護者、病院関係者・患者やその家族などへと広がっている。インターネットによる寄付申し込みの際、コメント欄に一言添えてくださる寄付者も大勢いらっしゃるが、義塾への心温まるメッセージばかりである。それらの一部は、基金室のホームページに「みなさまよりお寄せいただいたメッセージ」として掲載させていただいている。そうしたメッセージは、コロナと闘う病院関係者と塾生を勇気づけるばかりでなく、対応に追われる基金室職員やひいては一般の教職員のエネルギーにもなっている。
慶應義塾には社中協力の精神があるが、まさにそれを実感するこの1年間であった。これまで支えてくださったすべての皆様に、心からの感謝を申し上げるとともに、コロナ禍が収束するまで引き続いてのご支援をぜひお願い致したい。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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髙橋 郁夫(たかはし いくお)
慶應義塾前常任理事[財務・募金担当]