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【Keio Report】KGRI Virtual Seminar Series
コロナ時代の日本と世界:新たなパラダイムを危機とするか機会とするかを考える

2020/10/14

  • 中谷 比呂樹(なかたに ひろき)

    慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)特任教授

COVID-19は、世界・国・個人に大きなインパクトを与え、今後、地殻変動ともいえる変化を各方面にもたらすと考えられる。日本は、コロナ第1波対応として緊急事態宣言を発出し、医療関係の奮闘と国民の協力によって乗り切ったが、その過程で情報基盤の脆弱さや技術革新と社会実装の遅滞などの制度疲労が明らかになった。諸外国の状況をみても、コロナは社会の脆弱なところをついており、至急対策の強化が図られねばならない。特に、都市部を中心に感染が拡大しており、医療と経済双方のバランスをとりながら対策をすすめる必要性が広く認識されるようになった。その為、広範な影響を多面的に解析し、至急実施すべきこと、コロナ時代の新しい社会を積極的に創造するため中長期的視点を持ちながら考える施策について論議いただくプラットフォームとしてこのセミナーが企画された。

また、本セミナーは、KGRIの「長寿」研究に関わる異分野の専門家の知見を共有する場ともなった。日本は世界の最長寿国でありながら、人口10万人当たりのコロナによる死亡率が欧米の数十分の一に留まっている。この“JapanMiracle” については、海外の関心も高い。慶應義塾大学は現在、環太平洋大学協会(APRU)における「人口高齢化研究」の幹事校も務めているが、海外に向けては、APRUを介してセミナーの一部を英語で発信することとした。

セミナーは6月17日を皮切りに隔週で4回、完全にバーチャルな方式で開催され、第1回から3回は、毎回3名の講師の方からご講演をいただいた。最終回は、特別講演に引き続き、視聴者参加型のパネル討議の機会が設けられ、日本語での応答のあと英語による質疑応答がなされた。各回のハイライトは次のとおりである。

第1回は、冒頭KGRI所長の安井正人本塾医学部教授からKGRIとして新型コロナの問題にどう対処していくか、本セミナーの主旨説明が述べられた後、コロナの本質である「医療と科学技術」について検討した。まず葛西健WHO西太平洋地域事務局長は、感染が米国や新興国を中心に拡大の一途にあり、感染は社会の脆弱な部分をついているので、継続的な努力と革新が必要であることが強調された。中原仁本塾医学部教授は、日本における死亡者が欧米に比して数十分の一に留まっている原因を追究するプロジェクトについて紹介した。⽵村研治郎本塾理工学部教授は、コロナを克服するために医学部と理工学部の具体的な連携事例から芽生えてきたポストコロナ時代のイノベーションのエコシステム構築の可能性を述べた。

第2回の焦点は、医療とともにバランスをとらなければならない経済と、その経済を回していくための新しい働き方についてであった。小林慶一郎東京財団政策研究所研究主幹は、医療と経済は相互依存の関係にあり、感染を制御していくことはマクロ経済の立場からも重要であることを強調された。井深陽子本塾経済学部教授は、ワクチンと薬がない以上、3密をさけるといった対策に頼らざるを得ず、ミクロ経済の観点からも個人の行動変容を促すようなインセンティブの設計や社会的な環境整備が必要であることを述べられた。風神佐知子本塾商学部准教授は、ウィズコロナ時代には、遠隔勤務がデフォルトとなるので企業・社会・個人の考え方と具体的な行動の変容の必要性について述べた。

第3回の主題は、社会と法律そして日本を取り巻く環境であった。中山俊宏本塾総合政策部教授は、コロナがもたらす社会・経済・政治への甚大な影響は、従来からの趨勢を加速することも相まって、日本を取り巻く国際環境が激変することを強調された。山本龍彦本塾法科大学院教授は、対策で必要な個人情報の開示と公共的な利用を促進するには、国民が合意するアーキテクチャーを作り、そして情報を守りながら活用する姿勢が必要であることを強調された。若目田光生日本総合研究所上席主任研究員は、今回のコロナ禍は先延ばしされてきた日本のデジタル化を行う好機でもあり、プライバシー保護とイノベーションの対立ではなく、その共生を図ること自体にも大きな可能性があることを強調された。

最終回の第4回には、武見敬三参議院議員から特別講演として、今回のコロナ対応で浮き彫りにされた感染症対策ガバナンスの課題を指摘した上で、今後の政権与党としての取り組みを明らかにされた。インターアクティブ・セッションでは、乗竹亮治日本医療政策機構CEOをモデレーターに活発な意見交換が行われ、岡野栄之本塾医学部教授から新しいワクチン開発への取り組みも紹介された。

4回のセミナーシリーズには、約1000名(内海外80名)の参加登録があり、内訳は学生43%、教員・職員28%、社会人等29%であった。高校生・大学生からシニアに至る塾員・市民が共に学べたことは学塾として喜びに堪えない。また、この企画実施により学部横断的な取り組みが一層強化でき、慶應義塾の総合力を内外に示し得たものと思われる。今後とも、時代の要請に応じた論議のプラットフォームを提供してゆきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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