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【Keio Report】三田キャンパスの屋外案内サイン設置

2019/06/14

  • 岩淵 聡(いわぶち さとし)

    管財部管財担当主任

2019年3月末、三田キャンパス構内の屋外案内サインの整備が完了した。正門、東門、西門、北門の各門、構内の分岐点、建物入口の近くに計36点の案内サインを設置した。

この案内サイン整備工事実現までの過程は、通常の工事と少し異なる。同規模の工事では、工事の前年に次年度工事に向けて予算申請し、予算承認後、翌年度に工事を実施するため、2年がかりとなるケースが多いが、本工事は実現までに4年を要している。だが、やみくもに長い時間をかけた訳ではない。

案内サイン整備工事の目的は、「分かりやすい案内サイン」の実現であった。以前より三田キャンパス内に案内サインはあったものの、分かりづらく、サインに気づかずに通り過ぎる人やサインの前で暫く立ち止まる人、建物入口で立ち入ることを躊躇する人がいた。三田キャンパスには毎日通う学生、教職員以外にも受験生、塾員、外部の研究者や企業関係者など多くの方が訪れているため、分かりやすい案内サインを整備することが必要だと考えた。そこで、まず三田キャンパスのサインに関する現状の調査、分析、解決策の検討を行うことにした。

「なぜ分かりにくいのか」の原因分析と、それに基づく適切な全体計画に沿って、個々のサインをデザインすることが必要だと考えたわけである。そこで、学内の専門家の助けを得たいと考え、デザインリサーチを専門とする環境情報学部水野大二郎准教授(有期)[当時]に協力をお願いしたところ、快く引き受けてくださり、ゼミ活動の一環として、協力して頂けるようになった。

また、学事振興資金による研究費補助制度が、3年に及ぶ研究活動を支えてくれた。教員、職員、学生が一緒になって学内の課題解決に共に取り組む例は珍しく、立場が異なるそれぞれの視点から活発に意見を交わした活動の集積は、専門会社に具体的なデザイン提案を依頼する際に、デザインが目指す方向性の資料となり、最終的なデザインの修正作業においても重要な判断材料となった。

そして、案内サイン整備計画は主に以下の点に配慮すべきと考えられた。
1.人が多く行き交う分岐点には、矢印で行先を案内するサインを設置する
第1校舎の周辺は多くの人が行き交っているが、サインは1カ所にしか設置されておらず、建物四隅の4カ所の分岐点に設置すべきとした。歩きを止めることなく行先を確認できるような矢印による目的地の方向指示が望ましいと考えた。
2.建物の入口近くに建物名を示すサインを設置する
各建物の入口まで到達しても建物名の表示がなく、目的の建物であることを確認できる情報がなかった。安心して建物に入ることができるように、建物入口に建物名を表示すべきと思われた。
3.来場者の目線から見える景色をサインデザインに反映する
真上からキャンパスを見た平面的な建物配置図に加え、キャンパスを歩く人の目線から、立体的な図となるよう併記すると分かりやすくなると考えた。建物外観をイメージすることで建物を目印にして目的地に向かうことができる。
4.各建物に建物番号を付与し、建物番号による案内も可能にする
三田キャンパスの建物名は方角を元にした名称が多く、同じ方角にある建物名は「南校舎」「南館」「南別館」など類似している。各建物に建物番号を振り、建物番号により目的地に向かうことができると分かりやすくなると考えた。

案内サイン整備実現に向けて、関係部署(総務部、広報室、学生部、入学センター、通信教育部、メディアセンター)のメンバーで構成するプロジェクト委員会を設置し、水野研究会との活動成果を共有した上で、具体的なサイン整備プロジェクト実施に向けて検討を進めた。完成後のメンテナンスを安定的に実施できること、台風など強風時でも耐えうる安全性を確保することに配慮し、デザインと施工を一括して請け負うことができる専門業者数社に提案をお願いすることにした。

最終的なデザインは、主に以下の点に配慮している。
1.慶應義塾のスクールカラーを使用した色使い
多くの案内サインを設置することから、案内サインがキャンパスの印象に与える影響に配慮し、色使いはスクールカラーの一つである紺を採用した。
2.状況に応じて選択可能な2パターンの建物前サイン
建物の入口に案内サインを設置することで建物意匠を害する心配があり、建物のスケールや周辺環境に合わせて、大型の自立式サインと、小型で壁に設置するだけのサインの2パターンを使い分けた。
3.「本日のイベント」限定の掲示板設置
当日開催しているイベントや行事の案内に限定した掲示板を、最も人が行き交う中庭正門側の案内サインに併設した。開催中のイベント、行事の情報へアクセスしやすくすることを目的にしている。
4.AEDや多目的トイレの設置場所を分かりやすく表示
AED、多目的トイレはピクトグラム(絵で施設情報を示すサイン)で表し、建物入口のサインには設置階を示した。
5.車椅子利用者や視力が弱い方へ配慮
車椅子利用者の目線に合わせて案内サインの高さ調節を行い、また、視力が弱い方でも視認しやすいユニバーサルフォントを積極的に使用した。
6.視覚障がい者がサインに衝突することがないように設置場所に配慮
新設したサインが障害物となり、視覚障がい者が衝突して怪我をすることを避けるため、「設置場所がパターン化されるとサインの場所を認識しやすい」という視覚障がい者からの指摘に基づき、案内サインは原則入口左側に設置することにした(左側に設置できない場合は、衝突回避に配慮し、設置場所を特定した)。

学内の教員・職員・学生で協力して課題に取り組んだ研究成果が、案内サインの全体計画、デザインの細部に表現されており、1人でも多くの方に「分かりやすい」と感じて頂けることを願っている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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