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【Keio Report】協生環境推進室(Office for Equity, Diversity, and Inclusion)の開室に寄せて

2018/08/08

  • 岩波 敦子(いわなみ あつこ)

    慶應義塾常任理事

2018年4月、慶應義塾に協生環境推進室が誕生しました。

本組織は、「慶應義塾に関係するすべての構成員が、男女を問わず平等に尊重され、自らの価値観に従ってワーク・ライフ・バランスの選択が可能となることを目指す」男女共同参画室と、「慶應義塾に在籍するすべての児童・生徒・学生が障害の有無にかかわらず等しく教育を受けられるための方策を策定・推進することを目的とする」バリアフリー委員会を発展的に再編成し、義塾でのこれまでの取り組みに加えて、昨今新たな課題となっている多様性の受容に関する課題に迅速に対処するため新たに設置されました。その目的は、慶應義塾の教職員・学生・生徒・児童が互いの人格を尊重し、多様な価値観を認め、協力していく協生社会の実現です。

私たちは今、多様な価値観と社会的背景を持った人々が織り成すグローバル化という変化の波に直面しています。異なる考え方との接触はときに摩擦や衝突を生みますが、複眼的な視野は豊かな発想を育み、異なる思考や行動パターンを理解し受け入れる柔軟性は、社会を大きく成長させる原動力となります。互いに敬意を払い認め合いながら、社会的固定観念と心身の制約を乗り越え、一人ひとりが自分の選択に応じた生き方を実現するためには、相手の立場に身をおいて考えられる想像力と、他者への深い思い遣りに根ざした寛容の精神が必要です。

福澤諭吉先生の下で編纂された、「修身要領」の中では「社会共存の道は人々自(にんにんみずか)ら権利を護り、幸福を求むると同時に、他人の権利幸福を尊重していやしくもこれを犯すことなく、もって自他の独立自尊を傷つけざるにあり」(『修身要領』1900〔明治33〕)年2月)と述べられています。

現在、ダイバーシティ(多様性)促進の取り組みに加え、誰もが社会から孤立したり排除されたりせず、社会の構成員として能力を発揮でき、互いを支え合う「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」が注目されています。多様な価値観が並存する今日、年齢、性別、国籍、障がい、性的マイノリティ、文化、人種、信条、ライフスタイルなど、様々な背景を有する人々が他者を受容し、互いに自立した人として尊重しあう社会の創成は、「独立自尊」や「社中協力」の理念の下、慶應義塾が受け継いできた福澤先生の「志」であり、協生社会の実現を目指す活動は、義塾創立以来の理念に深く根差しているといえるでしょう。

本組織の特徴は、事務支援組織である協生環境推進室、全塾の基本方針・計画を策定する協生環境推進委員会、そしてワーク・ライフ・バランス、バリアフリー、ダイバーシティの3事業を企画立案・実施する各推進事業委員会からなるトライアングル構造です。協生環境推進委員会は、教学部門を代表する各学部長・研究科委員長、各一貫校長、諸センター長、そして法人部門を代表する塾監局長、病院事務局長、職責を担う関係部門部長、事務長で構成され、教学・法人が両輪となって義塾全体で本事業を推進する体制が整えられています。

事務支援組織である協生環境推進室は、理念に掲げた協生社会の実現を目的としてワーク・ライフ・バランス、バリアフリー、ダイバーシティの3事業に関する各地区での取り組みを支援するとともに、これまで各キャンパスで培った知見を共有するためのハブ機能を担います。そして3事業に関する具体的な活動を推進するために、各推進事業委員会が設置されています。

慶應義塾は小学校から大学院、病院を擁する学校法人ですから、現場での支援のありようは千差万別でしょう。大切なのは、キャンパスのどこに所属していても等しく適用される制度整備と、相手へ寄り添う丁寧な支援体制の構築、そして様々な支援を通して各部門で蓄積されたノウハウの共有化です。

この事業の成功には、誰もが当事者意識を持つことが欠かせません。円滑な情報共有の仕組みによる横の連携強化は、私たちが育んできた社中協力の精神に繋がります。

多様な価値観を共有・発信するプラットフォームの構築を通じて、慶應義塾創立来の理念に基づき、義塾の構成員が他者の尊厳に等しく敬意を払う気風をさらに醸成し、皆様と共により開かれた社会の実現を目指して参ります。

協生環境推進室(Office for Equity, Diversity, and Inclusion)組織体制
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