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【新 慶應義塾豆百科】
慶應義塾図書館 展示室

2025/10/31

三田山上の中央に位置する三田メディアセンター(慶應義塾図書館)の入口を入ると、宇佐美圭司作の壁画を右手に、正面の小さな展示室に迎えられる。

槇文彦建築による図書館新館の1階ロビーには、1982年の開館当初より目録カードボックスが配置されていた。その後パソコンエリアと形を変え、PC撤去後の2011年秋、展示室が誕生した。広さ50㎡ほどの室内に、大小様々な形状の展示ケースが並ぶ展示室では、年間を通して、貴重書をはじめとする図書館所蔵資料を使った展示会が季節ごとに開催され、教職員、塾生のほか、塾員、学外の方々にも広く楽しんでいただいている。

義塾の図書館展示の歴史は長く、その原点は明治期まで遡る。明治45年、現在の図書館旧館の開館式の行事の1つとして、福澤諭吉の遺品、古文書類、洋書の稀覯書の展示会が開催された記録が残る。その後、展示場所や展示ケースの規模の変化を遂げながら、今年で369回を数えた。

展示は、三田メディアセンター展示委員による企画が中心で、テーマはその時々の時事や周年記念、大学行事のオープンキャンパスや夏期スクーリングにあわせたもの、貴重書、三田文学文人の自筆原稿や遺品などの特殊コレクションの紹介など、その内容は様々である。

今年開催の展示資料をみても、甲骨文字が刻まれた骨などの紀元前の古代遺物から、立体的なトーラー写本、墨で黒光りした漢籍の版木や活字、羊皮紙に書かれた西洋中世写本、日本の百万塔陀羅尼や絵巻物、浮世絵、昭和3年普通選挙ポスター、フランツ・リストの自筆楽譜など、形態や時代、地域も多様な資料を展示している。

その他、教員持ち込み企画や、学会開催に関連した資料の展示、過去には文学部授業での学生による展示も開催し、学内の教員学生、他部署とも積極的に連携している。教員主催の展示では、資料解説を教員が行う「ギャラリートーク」の催しも企画し毎回好評を博している。また、デジタル画像がある資料については、展示資料の解説文中やパネルで、画像公開先へのQRコードを案内し、高精細画像もあわせてその場で楽しんでもらう工夫も凝らしている。

電子書籍や古典籍のデジタル画像を誰でも気軽に楽しめるようになって久しいが、それでもなお「本物」が持つ力は計り知れない。まだ活字のない時代の写本からは、人類の英知を後世に伝えようとする先人の想い、歴史を彩った人物の自筆書簡に綴られた文字からは、筆者の人柄や息遣いまでもが伝わる。時空を超え人々の手で大切に守られ、義塾の長い歴史の中で蓄積されてきた知の宝を、ぜひ展示室でお楽しみいただきたい。

(三田メディアセンター スペシャルコレクション担当 山田摩耶)

※図書館展示室は、見学希望であれば一般の方どなたでもご見学いただけます(入場無料)。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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