【新 慶應義塾豆百科】
カフェ八角塔
2025/06/30

「カフェ八角塔」は、重要文化財に指定された慶應義塾図書館旧館の東側の八角塔の1階に佇む、慶應義塾の歴史につながる空間にある。この場所は、かつて「雑誌室」として使用され、戦後は「図書館事務室」として、直近では展示室として福澤諭吉にまつわる品々が展示されていた。2021年7月、福澤諭吉記念慶應義塾史展示館が図書館旧館の2階に開館されるのにあわせて「カフェ八角塔」としてオープンし、現在はミュージアムショップも兼ねている。
室内は天井が高く開放的、クラシカルな調度品に囲まれ、歴史ある図書館旧館の趣を感じさせる空間が広がっている。昭和47(1972)年刊行の『慶應義塾図書館史』によると、図書館内に飲食ができるスペースがあるのは今回が初めてではないようだ。大正13(1924)年に小泉信三図書館監督が就任すると「入館者及一般塾生のため、売店設置の必要を認む。但し販売品はパン、菓子、牛乳、コーヒー、紅茶類にして現場にて調理煮炊をせざるものに限る。」という方針のもと、地下に小さな売店が設けられた。いつごろからか、「ライスカレー」が販売品目に加えられ、昭和10年代には「支那ソバ」が提供されていたらしく、温かい料理で利用者や塾生の食欲を満たしていたという。現在の「カフェ八角塔」にも、コーヒーや紅茶、カレー「コルリ」のメニューが並ぶ。「コルリ」は、福澤諭吉が清国人子卿(しけい)著の『華英通語』なる英中対訳の単語集をアメリカで買い求めて帰国の後、英語の発音と中国語の訳語の日本読みとを片仮名でつけて出版した『増訂華英通語』に由来する。この書物によって日本で初めて現在の「カレー」を文字で紹介したことにちなんだもので、時を超えて図書館旧館内で提供されているのも趣深い話である。
カフェ八角塔の特徴の1つは、慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)、アート・センターや塾史展示館とのコラボレーションによる限定メニューである。展覧会のテーマにちなんだスイーツやドリンクが提供され、展示の前後に訪れる方も多い。6月3日からKeMCoにて開催される高橋誠一郎浮世絵コレクションの一部を展示する「夢見る!歌麿 謎めく?写楽」展では、期間により歌麿や写楽に着想を得た2種類のパフェが展覧会を盛り上げる。
併設するミュージアムショップでは、KeMCoや塾史展示館の展示図録を始め、一部の慶應義塾オリジナルグッズ、福澤諭吉関係の書籍等も扱い、見学の記念に購入できるようになっている。「カフェ八角塔」は、歴史的建築物内で落ち着いた時間を過ごせるキャンパス内では珍しい特別な場所である。三田キャンパスを訪れた際には、ぜひ立ち寄って、歴史に思いをはせてみてはいかがだろうか。
(編集部)
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