三田評論ONLINE

【新 慶應義塾豆百科】
慶應医学賞

2024/05/31

第27回慶應医学賞授賞式(2022年11月)より

1996年に発足した慶應医学賞は世界の医学・生命科学の発展に寄与する顕著で創造的な研究業績を挙げた研究者に授与されるもので、28回を迎えるまでに受賞者のうち10名がのちにノーベル賞を受賞している。一私大においてこうした学術顕彰制度は他に類をみない。

慶應医学賞は95年に設立された坂口光洋記念慶應義塾医学振興基金の主要事業である。この振興基金は卒業生である坂口光洋氏から医学研究の奨励とその創造的発展、また世界の医学・生命科学の発展に寄与するためと寄付された50億円の浄財をもとに創設された。医学賞の授与の他に医学国際交流、医学研究奨励、記念講座等の事業を進めている。坂口氏は昭和15年に医学部を卒業後、加藤元一教授のもとで生理学を学び、その後日本大学医学部教授を昭和34年まで務めた。80歳を機に戦後の混乱期に知人に頼まれて購入した土地を売却し、義塾に寄贈を申し出たものである。その後99年に20億円の追加寄付があり、基金事業は順調に進展している。

第1回受賞者のS・プルジナー博士が翌97年にノーベル生理学・医学賞を受賞し、慶應医学賞はノーベル前賞ともいわれるようになった。賞は新しいパラダイム・概念を切り拓くこと、今後の発展を期待されることを重視して選考されている。つまりノーベル賞受賞者ではなく、将来ノーベル賞が期待される研究者が選考の基準となっている。

その審査・選考は世界各国の著名な研究者および研究機関からの推薦がスタートとなる。例年1、2月に候補者推薦募集を開始し、3月の締切後、学内外の専門委員による数次の審査を経て、8月頃選考委員会で最終候補者を決定し、医学振興基金運営委員会に推挙、運営委員会からの報告に基づき塾長は9月に受賞者を決定する。授賞式では受賞者に賞金1,000万円とKEIOの文字と医学の象徴である蛇が巻き付いた杖のマークがついたメダルが贈呈され、記念講演が行われる。ちなみに第1回選考時には世界18カ国に1,300通余りの推薦依頼状が発送された。締切までに十数カ国から147件の推薦があり、国内外の117名の優れた研究者が候補に挙がった。候補者に対し、業績調査と四次にわたる審査を行った結果、審査委員会で2名が全員一致で推挙された。審査委員会は委員長および学内外から選出された18名の委員で構成されている。

福澤諭吉はドイツから帰国した北里柴三郎が伝染病研究所設立を政府に訴えた時、私財を投じて研究所の設置を援助した。日本初の結核専門病院開院にも土地を提供した。北里は福澤の恩に応えて、慶應義塾医学部の創設に携わり初代医学部長となっている。こうした歴史も慶應医学賞につながっているのではないだろうか。

(元広報室長 石黒敦子)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事