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【新 慶應義塾豆百科】
横浜初等部の植生

2023/11/30

横浜初等部では敷地面積37,995㎡のうち約38%の14,542㎡をビオトープや樹林、菜園、庭園、約36%の13,716㎡を天然芝のグラウンドとして活用している。敷地内には196種類、約2万株の樹木や草花が植えられている。春の訪れを告げるユキヤナギを筆頭に、校内では年間を通じて花実をつける樹木や果樹を観察することができる。これらの植栽は横浜初等部開設準備室において構想され、①四季の変化を感じられ、②年間を通じて学びの題材となり、③季節を追って果実がなること等をテーマに選定された。例えば、茶道や華道を学ぶ目的につくられた和室(望雲第(ぼううんてい))からは、茶花であるエンシュウムクゲやツバキ(セイオウボ)、リキュウバイなどを望むことができる。

選定された木々の中には、ビワ、ナツミカン、レモン、クワ、ヤマモモ、ザクロなど採食できる果樹も多い。横浜初等部は具体的な観察や体験を重んじているため、自由に植物に触れる環境が整えられている。そのため採食可能な果実の多くが、生徒の手が届く範囲あるいは、肩車などの創意工夫によって採取可能な範囲で収穫され、時期によっては樹木の下部の果実は根こそぎ刈り取られることになる。

ヒトが食べるのは困難な樹木も、多種多様な昆虫を呼び寄せる役割を担っている。横浜初等部開校10周年を記念して制作された『慶應義塾横浜初等部10周年記念誌』に、山内慶太初代部長より「ビオトープ周辺の木々は、蝶を追いかける姿を想像しながら選定」された旨のコメントが寄せられている。横浜初等部がシンボルツリーとするクスノキは、鮮やかな羽を持つアオスジアゲハを育て、鋭利なトゲを持つカラスザンショウは、クロアゲハやカラスアゲハを横浜初等部に招く。ウグイスを呼び寄せる木でもあるカラスザンショウは、ヒトには無用の木とされながら、蝶や鳥には愛されるようだ。

最後に、開校時の植生からの変化について記述する。イチョウやリョウブ、カラタチが消失した一方で、野鳥あるいは生徒・教職員による種子散布によるものか、自然発生した樹木もある。例えば、ビオトープ周辺のカキである。「桃栗三年柿八年」ということわざがあるが、実をつけるまで(おそらく)誰も存在に気が付いていなかったカキが2022年に突如、出現した。野生のカキということになるが、丁寧に管理された菜園の先住のカキに比べると、味はやや劣る。さらには、アキニレと呼ばれる樹木が実生(種から自然に生えたもの)するなど、緩やかにではあるが植生の遷移も確認されている。横浜初等部を訪ねる際には花や果樹、それに集まる昆虫などにも目を向けていただきたい。

(横浜初等部 納谷洋平)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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