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【新 慶應義塾豆百科】
日吉協生館

2023/06/30

エントランスから中央廊下「知のパサージュ」に入ると、吹き抜けの天井ガラス窓から自然光が入り込んでいる。2階の八角錐ピラミッドの周りのベンチでは、保育園帰りらしいお母さん達がベビーカーを脇に置いて歓談、その周りでは子供たちが笑い声をあげながら走り回っている。3階の教室ではサイバネティック・アバター技術の社会実装について英語で議論が進行中だ。

協生館は、義塾創立150年記念事業の一環として、日吉キャンパス西側の綱島街道沿いに2008年に建設された。事業の基本コンセプトである「『独立』と『協生』の2つの焦点を持つ開かれた学塾」を基に、地域に根ざし、広く社会に開かれた活動を展開する新たな挑戦の場として「協生館」と名付けられた。

2008年に新設され今年15周年を迎える大学院システムデザイン・マネジメント研究科と大学院メディアデザイン研究科だけでなく、日吉本町から大学院経営管理研究科(ビジネススクール含む)も移転し、協生館3階から6階に拠点を構えた。3つの研究科は共に学部のない独立研究科で、社会人や留学生の比率も高く、社会にインパクトを与え未来を創造する技術や仕組みを生み出すための教育研究が行われている。ローカルにもグローバルにも活躍でき社会をリードする人材を育成するため、研究科内ラボと地域社会、企業との連携プロジェクトも活発に行われている。

協生館には保育園、診療所、スポーツ施設、飲食店などのテナントも誘致された。当時から入れ替わりもあるが現在も10のテナントが入居している。また多目的教室や500人が収容できる藤原洋記念ホールは外部の社会活動に貸出しも行っている。2021年東京オリンピック・パラリンピック開催の折には英国代表チームが7階の研究宿泊施設に滞在しながら協生館内プールを含む日吉キャンパス内各所の体育施設を利用して事前キャンプを行ったし、日吉駅前という好立地を活かして横浜市新型コロナウイルスワクチン集団接種会場が設置されたこともあった。

竣工当時には協生という単語に馴染みがなかったが、2018年4月に学内に協生環境推進室が設置され、Diversity, Equity, and Inclusion(DEI)という概念とともに言葉も定着してきた。月1回の協生館運営連絡会の議事録を見ると、警備や設備対応だけでなく、各テナントの売上状況にも目を配っていることがわかる。DEIを維持する環境づくりには不断の努力ときめ細かいフォローアップが必要なのだ。さて、協生館の英文名称はThe Collaboration Complexである。様々な意味や期待が込められている協生館からどんな取り組みが生まれてくるだろうか。今後が楽しみだ。

(日吉学生部大学院課長 鈴木民香)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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