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【新 慶應義塾豆百科】
普通部からの眺め

2023/05/31

慶應義塾普通部は日吉駅の西側、通称「ひようら」側にあります。駅前から放射線状に広がる5本の通りの中の「普通部通り」を進み、商店街を抜けると閑静な住宅街の一角に木々で囲われた敷地と校名碑が現れます。石畳のアプローチを上り、漆黒の正門を通り過ぎると左手から体育館(1958年竣工)、本館(2001年竣工)、本校舎(2015年竣工)が迎えてくれます。校舎の壁面などにあしらわれたペンマークは普通部独自のもので、よく見慣れた通常のものより細身でシャープなデザインとなっています。

本校舎の屋上に上がると目の前に日吉の街並みが飛び込んできます。北側は住宅街が一面に広がり、武蔵小杉のあたりは高層マンションがそびえ立っています。東側は日吉キャンパスの独立館、来往舎、協生館など大きな建物があり、その奥には陸上競技場も見えます。南側に目を転じれば、本館や食堂がある敷地の先に林が緑のカーテンのように広がっていて、ほっとする気持ちになります。そして西側の眼下のグラウンドから視線を先に移していくと、高い建物は少なく地平線が広がりを見せ、遠くに丹沢山地と富士山を一望することができます。良く晴れた日の夕暮れ時には山々の黒い影と、茜色や藍色、紫色など美しいグラデーションで染まった空や雲と風景が一体となり、まるで絵画を鑑賞している趣です。

普通部は1951年に三田綱町から天現寺を経て日吉のこの地に移転し現在に至っています。普通部に長年勤められている先生に伺うと「日吉の街並みや景観は時間と共に大きく変わってきましたが、この富士山や山々の眺めは変わらないですね」との言葉がありました。この西側の眺めは普通部の卒業生・在校生、そして我々教職員の誰もが脳裏に刻んできた普遍(不変)の記憶かもしれません。

普通部は今年、義塾の中等教育を担う一貫教育校として125年を迎えました。「その先へ 普通部百二十五年」のスローガンの下、様々な記念事業を計画しています。6月8日には日吉記念館で「普通部百二十五年記念式典」を挙行します。「普(あまね)く、通ずる」を教育の旨として今日まで紡いできた歴史と伝統を再確認しつつ、未来をしっかり見据えた学びと心豊かな人格形成の場として絶えず進化していくという決意を表す式典にすべく、卒業生や関係者の協力もいただきながら準備を進めています。

変わっていくものと変わらないもの。普通部の屋上に上がって360度の風景を眺めていると、そんなことをぼんやり考えます。生徒たちの若い感性なら、もっと多様なことを感じ取り、友人たちと語り合いながらこの眺めを学生生活の記憶の一端に刻んでいくことでしょう。

(普通部事務長 泉 淑達)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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