三田評論ONLINE

【新 慶應義塾豆百科】
南校舎の庭園

2022/12/28

北側テラス

三田キャンパス南校舎7階にあるテラスは、2011年竣工の南校舎建て替え時に7階に設置された。廊下を挟んで、桜田通りに面した南側テラスと東京タワーを正面に臨むことができる北側テラスの南北に構成された庭園は、晴れた日には、学生が談笑したり、休憩したり、リラックスできる空間になっている。近くにはゼミ活動で学生が仲間と議論できるグループ学習室があり、学生が多く集まるエリアでもある。

南校舎建て替えから11年を経過したテラスの植物の一部には傷みが目立ち、2022年春に植物の入れ替えを行うことになった。

庭園工事を実施する際には、「美しい庭園」を検討することが多い。ただし、庭園として美しく魅せるには、適した環境、適した空間面積が必要になる。南校舎7階テラスは、夏は強く日が射し込み、スペースも狭く、十分な条件を満たすことは難しいことから、美しさとは別の視点からの庭園構成を検討した。

2022年春は、数年にも及ぶ新型コロナウイルス感染症蔓延の影響による海外渡航制限により、学生は海外留学や海外旅行に行きたくてもそれが叶わない時期を過ごしていた。テラスを目にした学生が、少しばかりでも「海外」を感じることができるテラス、かつ慶應義塾として固有の表現がなされた庭園の構成を目指した。

新しく完成した南校舎7階テラスは、福澤諭吉が明治維新以前に三度訪れている北アメリカとヨーロッパの植物を表現している。福澤諭吉が当時辿ったルートに沿ってその地域の植物を植え、福澤諭吉が目にした(かもしれない)植物たちを並べている。

南側テラスと北側テラスの具体的な表現コンセプトは以下のとおりである。南側テラス:1860(万延元)年、25歳の福澤諭吉は、軍艦奉行木村喜毅の従者として、軍艦咸臨丸に乗り初めての海外地になるサンフランシスコを訪れている。1867(慶応3)年には、幕府が購入した軍艦の受取をめぐるアメリカとの交渉の翻訳方として渡米している。渡航先のサンフランシスコにあるカリフォルニアの自然を、サボテン、アロエ、アガベ、ユッカなどの多肉植物を主に用いたドライガーデンとして表現している。北側テラス:1862(文久2)年27歳の福澤諭吉は、開港開市延期および樺太との国境確定交渉のために派遣される使節団の一員となって、インド洋から紅海を経てスエズ地峡を汽車で越え地中海からフランス、イギリス、オランダ、プロイセン、ロシア、ポルトガルを約一年かけて訪れている。

広大なユーラシア大陸の自然を熱帯植物から、グラスやハーブ、果樹などの有用木、針葉樹へとグラデーションする植物配置で表現している。

(管財部 岩淵 聡)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事