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【新 慶應義塾豆百科】
早慶戦のデコレーション (大看板)

2022/10/28

2019年秋季リーグ戦の慶應側応援席

東京六大学野球秋の早慶戦、神宮球場の内野スタンド後方に設置されている「デコレーション」と呼ばれる大きなイラスト看板をご存知の方も多いことだろう。応援のスタイルが近代化された戦後、「好敵早稲田」を倒す機運を盛り上げるためにこのデコレーションが設置されてきた。ここで歴史を遡りたい。

2008(平成20)年に編纂された『慶應義塾大学応援指導部七十五年史』によると、デコレーションは1950(昭和25)年秋の早慶戦に初めて登場。これは昭和天皇、皇后両陛下をお招きした天覧試合で、明治神宮野球場の満員のスタンドの後ろには大きな金太郎が熊を投げ飛ばす様子が描かれていた。1952(昭和27)年3月に米軍から明治神宮に野球場が返還されてから、春秋の東京6大学野球は全試合が同球場で行なわれることになり、リーグの人気はますます高まっていった。

同じ頃、「早稲田の『稲』を食べてしまうのはネズミだから、ネズミをマスコットにしたらどうか」という発想から、応援指導部はミッキーマウスを応援の題材に使用し始めた。その後、慶應義塾の正式なマスコットとして認めてもらうため、ウォルト・ディズニーの東京事務所にお願いに行ったという。正式な承認はもらえず、版権の使用手続きを踏むことでミッキーマウスをデコレーションに登場させていた。

応援指導部内で「新たなマスコットを考案した方が良いのではないか」と考えていたところ、当時の部員だった濱岡慶男氏(1964法)が架空の一角獣「ユニコン」に独自の意匠を加えたモチーフを編み出した。この「ユニコン」の像は、三田西校舎の辺りに建っていた大講堂三階のバルコニーに左右一対として設置されており、塾生・教職員に親しまれていた。設置の経緯は不明とされている。1945(昭和20)年の空襲で激しく被災し、一体は修復、もう一体は行方知らずとなっていたが復元され、現在は中等部の正門付近に設置されている。

かくして、1962(昭和37)年の秋の早慶戦の大看板に登場した「ユニコン」は、大講堂を飾った後、不遇であった二体を幸せにしたいという意向で、礼装した男女といういでたちで登場、見事このシーズンを優勝に導いた。その後、再びミッキーマウスが起用されることもあったが、現在は「ユニコン君」と「ユニ子ちゃん」として、応援指導部の公式キャラクターに収まっている。

2020(令和2)年からの2年間、デコレーションは新型コロナウイルス感染症拡大の影響で姿を消し、今秋の設置も未定という。近い将来、再び神宮球場の秋空を彩り、野球部に声援を送る塾生・塾員を温かく見守ってくれることを期待したい。

(広報室)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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