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【新 慶應義塾豆百科】
SFCの建物名称、ギリシャ文字の由来

2022/02/28

左から、カッパ(κ )、エプシロン(ε)、イオタ(ι)、オミクロン(ο)棟

昨秋、街頭インタビューで、マイクを向けられた人が「ナントカ株が…」と語っていた。まだ多くの人には馴染みがなく、「ナントカ」になったのは自然なことだ。だが、SFCの関係者は(数多くの卒業生もふくめて)、微妙な気持ちで苦笑していたにちがいない。「オミクロン」と聞くと、すぐさまキャンパスを思い出す。

SFCでバスを降りて、正面の大階段を上ってしばらく歩いて行くと、同じ形をした建物が4つ並んでいる。左から、カッパ、エプシロン、イオタ、オミクロン棟(いずれも研究・教室棟)で、κειοという並びだ。事務室がある本館はアルファ(Α)館、大講義室棟はシータ(Θ)館、生協の購買部や食堂があるのはシグマ(Σ)館というように、SFCの建物は、設立当初からギリシャ文字で呼ばれている。初めは困惑もあったようだが、いまでは宅急便も出前もギリシャ文字で通じるようになっている。さすがに緊急車両を呼ぶような場面で「カッパ?」などとやりとりしていては困る。「公式」な建物名は、別途決まっているらしい。

三十数年前、SFCを設計するにあたって、あらたな知の源泉をつくることを想い描きながら、ギリシャ文字を使うことになったと聞く。調整池はテアトロン、体育館はアリーナという愛称だ。教職員が語らう「アゴラ」が定期的に開かれ、異動のお知らせは『パンテオン』というニュースレターで届く。多くのことも、一貫性をもって名づけられている。そう思って大階段の下に立つと、巨大な神殿へのアプローチに見えてくる。

創設以来、私たちのキャンパスは少しずつ広がってきた。いま、キャンパスで進行している「未来創造塾」事業は、2007年にはじまったものだ。経済状況の悪化などをふくめ、紆余曲折を経ながらも、2020年の秋には滞在型教育研究施設として、東側の建物群がすべて竣工した。その西側の用地では学生寮の建設がすすんでいて、2023年の春には学生たちの入寮がはじまる予定だ。

さて、あたらしい建物をどう呼ぶか。東側は、学生と教職員が設計や施工にかかわりながらつくりあげたので、一連の建物群は「βヴィレッジ」と呼ぶことにした。いつでも「工事中」(更新し続ける)というコンセプトに自負を込めて「ベータ(β)」になった。いっぽうの学生寮は、暮らしの拠点になるのだから、「ハウス」のΗ(イータ)を充てて「Ηヴィレッジ」に決まった。幸いなことに、βもΗもまだ使われていなかったので、場所の特性を意識しながら決めることができた。そして、すでに大部分の文字が使われていることにも気づいた。

(大学院政策・メディア研究科委員長、環境情報学部教授 加藤文俊)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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