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【新 慶應義塾豆百科】
耐震化の取り組み

2022/01/31

図書館旧館 免震レトロフィット工法イメージ図(建物下に免震層を構築)

1995年(平成7年)1月17日、阪神・淡路大震災が発生し、同年「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が施行された。社会的にも耐震化への取り組みはこの年を境に、促進されることとなる。

慶應義塾では、平成7、8年に、校舎や病院など学生・生徒・不特定多数の人が多く使用する建物で、新耐震基準が制定された昭和56年以前の建物を対象に、100棟程の耐震診断を行った。その結果、慶應義塾が保有する建物の半分が耐震不足であるという診断結果であった。当時の慶應の建物は、昭和30、40年代に建てられた建物が多く、古い構造基準による建物がほとんどで、当時の執行部は危機感も持っていた。施設の整備は、一朝一夕でできるものではないため、それ以来、継続して耐震対策に取り組むことになる。なお「耐震化率」とは、保有する建物の中で、居室のない機械室・倉庫などの建物、200㎡以下の建物、未使用建物を除いたもののうち、耐震性を有する建物の割合である。

耐震への取り組みというと、耐震補強を行うのだが、それと合わせて、建物自体の建て替えも進めている。

本格的には、2004年から主だった大学や一貫教育校の校舎の耐震補強を4年間で集中的に行った。2008年の創立150年では、記念事業として多くの建物が建て替えられた。建て替えは、老朽化した建物の更新、新たな教育・研究の実現、施設環境の整備といった目的で行われるが、耐震問題の解決といった意味もある。新たに建てられる建物に対しては、大規模な建物は免震構造にしたり、一般建物に比べて、安全性や構造性の優れたものを採用することとしている。2011年には東日本大震災もあり、より堅牢な建物を計画するようにしている。

最も困難とされていた病院施設も2011年より既存棟の耐震補強から順次取り組み始め、2018年、1号館竣工によって、病院の耐震化は完了した。

この結果、慶應における耐震化率は徐々に上がっていき、2006年に70%、2008年に80%、2012年に90%を超えた。それ以降も、小規模な建物や使用の少ない建物、遠隔地などの耐震化が徐々に進められている。

最後の大物が、図書館旧館の耐震化であった。重要文化財であり、レンガ造りで、明治期の建物という特殊な条件の建物である。免震レトロフィット方式を採用し、保存修理も施した。2年2カ月かけて改修工事を実施し、2019年5月に完了した。

耐震化の取り組みは、費用も多大にかかり、困難な状況の工事も多い。このように、1995年に耐震化率50%だったものが関係者の取り組みにより、四半世紀をかけて2020年にようやく100%を達成した。

(管財部 渡辺 浩史)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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