三田評論ONLINE

【新 慶應義塾豆百科】
三田キャンパスの建物の形

2021/11/30

三田キャンパス北館

三田キャンパスには明治8年に竣工した演説館をはじめ多くの建物があり、その形状は様々である。近年、周辺には超高層ビルが多くなってきたが、キャンパス内にはさほど高い建物はなく、最も高い南館でも48・3mである。これにはある法律による形態制限が影響している。世に言う「日影規制」がこれに当たる。

日影規制は1970年代に入って中高層マンションなどが建築されるようになり、日照問題が顕在化して訴訟が増えたことから1976年の建築基準法改正で導入された。東京都では1987年7月に「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」として施行され、中等部や女子高を含む三田キャンパスはその影響を大きく受けている。

この条例では、すでにある建物が条例に合致しない日影を出している場合、その建物は「違法建築」とはならずに「既存不適格」と称して直ちに解体しなくても済むのが特徴である。しかし合致している建物と同じ扱いではなく、敷地内の新築や増築時に大きな制限を受ける。

通常の規制よりさらに厳しい日影条件となり、新たな建物の外壁は隣地境界線から4m以上離す、建物が建てられる面積(容積率)が3分の2になるなどがあげられるが、不適格となっている日影部分に新しい影を出せない事が建物の形態に最も影響を及ぼす。不適格建築物の上部だけでなく周囲にも建てにくい制限が課されるのである。一般的に学校は北側に寄ったところに東西に長い建物が多く、この場合だと主として北側部分に規制を超えた日影が出やすく、三田キャンパスもこれに当たり北側の隣接地に不適格の日影を出している。

この建物の形態制限をよく表しているのがキャンパスの最も北側のファカルティクラブや北館ホールなどが収容されている北館である。この建物は、屋根が北側に向かって大きく傾斜しており、北側隣接地への日影を少なくしている。

また、イタリア大使館側に出している不適格な日影を増やさないように西側の2、3階の外壁が北側方向に斜めになっている。この一見デザインからきているように思える建物形状が、実は日影規制による形態制限からきているのが北館なのである。ファカルティクラブへ行かれる際などに、この観点から北館をご覧いただき「この壁や屋根の形が規制の影響なのか」などと思っていただけると幸いである。

この日影規制によって三田キャンパスは高層の建物を建てにくい状況となっている訳であるが、一方超高層の建物が教育の場に適しているかは、多くの議論を呼ぶところかも知れない。案外、今の高さくらいが良いのではと思う次第である。

(高等学校事務長 矢ノ目 優)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事