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【新 慶應義塾豆百科】
美術品管理運用委員会

2019/04/17

手古奈像

慶應義塾は多数の美術品を所有しており、それらの収蔵・管理・運用に関する業務を円滑かつ適正に実施することを目的として、2002年に美術品管理運用委員会(以後、「本委員会」と称する)が設立された。専門的知見を有するアート・センターを中心に、一貫教育校、斯道文庫、福澤研究センター、メディアセンター、広報室といった各部門から委員が名を連ね、義塾の「モノ」の管理を担当する管財部が事務局を務めている。このように、本委員会は多種多様な視点から所蔵美術品のあるべき姿について意見を交わす場で、まさに全塾的な取り組みとなっている。以下に、本委員会の設立趣旨が体現された事例を紹介する。

まず、美術品データベースの整備が挙げられる。本委員会の設立後、塾内の美術品の洗い出しに取りかかり、点在する倉庫や図書館書庫などに眠っていた絵画や彫刻が掘り起こされ、その入手経緯や価値が調査された。これらの調査結果を美術品情報に加える形で、美術品データベースが整備された。

また、長年手入れがされていなかった彫刻・絵画の清掃・修復も順次実施されている。義塾は多数の屋外彫刻作品を有しているが、これらに定期的な洗浄作業が施されるようになった。最近では文学部美学美術史学専攻の学生や幼稚舎児童にその作業の一端を体験してもらっている。適切に維持管理された美しい姿で見る人を魅了するだけでなく、これらの作品は今や教育の実践にも活用されている。

屋内彫刻作品である北村四海作《手古奈》の修復活動も本委員会の功績と言えよう。この作品は、1945年の東京大空襲で被災し、腕部分の欠損や表面の黒変が生じ、図書館旧館地下倉庫で長く眠ったままになっていた。しかし、本委員会でその取り扱いが俎上に載り、修復を最低限に留め、被災した当時の状態を保持する修復方針が示された。これは、その美術的価値はもとより、歴史的観点から、戦災の凄まじさを物語る作品状態に価値を見出したためであった。精緻な修復活動が求められたが無事に完了し、創立150年記念で開催された「未来をひらく福澤諭吉展」で約60年ぶりに展示された。

三田キャンパスには屋内外の至るところに美術品が点在しているが、その説明キャプションも本委員会が主導して設置を進めた。これは、学生だけではなく、三田キャンパスを訪れる方々に、美術品をお楽しみいただきたい、という思いから整備されたものである。

このように教職員組織が一体となり、美術品の管理運用に資する活動は、大学組織としては稀有な例と言え、義塾としてはさらに推進していきたいと考えている。

(管財部)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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