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【新 慶應義塾豆百科】
三田文学ライブラリー

2019/03/28

「三田文学ライブラリー」は、慶應義塾図書館(三田メディアセンター)が有する特殊コレクションである。図書館では戦前から慶應義塾出身の小説家で実業家でもあった水上瀧太郎の著作や『三田文学』にゆかりのある泉鏡花の旧蔵書、原稿や遺品などを所蔵していた。そこに小説家、俳人であった久保田万太郎の全著作および各種資料が寄贈されることになった。

書籍のほかに久保田万太郎の没後著作権が義塾に寄贈されることになり、1963(昭和38)年に「久保田万太郎記念資金委員会」が設置された。その事業として資料の整理、保管および公開があった。そこでその委員であり当時の慶應義塾図書館長であった佐藤朔が「三田文学ライブラリー」の設置を提案、1966(昭和41)年8月に発足した。その際、記念資金から100万円の援助を受けて資料を購入している。

時を同じくして『三田文学』が復刊したことで、塾内の日本の近代文学研究を盛り上げようという機運が高まっていた。西脇順三郎など『三田文学』関係者26名が発起人となり、第1期目標として塾関係の42名の物故作家と当時の芸術院会員4名の著作、書簡、原稿等、三田の同人雑誌、当時活躍している作家の戦前の出版物を蒐集することを決めた。関係者に協力の呼びかけを行ったところ、多数の初版本、原稿、書簡などが寄贈されるようになっていった。

2010(平成22)年に慶應義塾創立150年記念「三田文学創刊100年展」が開催されることになり、それを機に三田メディアセンターでは『三田文学ライブラリー目録』を作成することにした。1969(昭和44)年に目録が発行されて以降、三田(慶應義塾)の文学に関わる方たちからの寄贈が増えていた。そこであいまいになっていた蒐集対象者について、『三田文学』に関わりのある慶應義塾出身の文学者(物故者)106名を「三田の文人」と決め、その作家の初版本と原稿に限って「三田文学ライブラリー」のコレクションに含めることにし、寄贈資料を再編成した。

「三田文学ライブラリー」の資料は、通常の蔵書と異なり「原装保存」(刊行されたままの状態で、請求記号ラベルは貼らず、ブックカバーや帯もそのまま残す)という形で取り扱っている。初版本のみを蒐集しているため、刊行当時の凝った造本や装幀がわかるという点で、ブックデザインの貴重なコレクションでもある。保存を目的としているため、一般の閲覧には供していないが、慶應義塾と近代日本文学との関わりを伝える資料として、学内外の展示会などの機会を通して、これからも公開していきたい。

(三田メディアセンター課長 杉山良子)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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