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【新 慶應義塾豆百科】
通信教育課程夏期スクーリング

2018/08/08

慶應義塾大学には文学部、経済学部(商学部系科目の履修可)、法学部に通信教育課程がある。

この通信教育の制度は、わが国が戦後の教育改革の一環として取り入れた新しい制度であり、慶應義塾は当初より通信教育課程を開設することを決め、この制度そのものを作るところから取り組んだ。その中で、〝スクーリング〟は画期的で、当時、通信教育の盛んなアメリカ等には存在しない日本特有の考え方であり、慶應義塾は、1947年12月に「大学通信教育基準」が決まった翌年の夏には、わが国で最初のスクーリングを三田キャンパスで実施したのである。

当時のスクーリングの時期は8月の約1カ月間で、前半3週間、後半3週間(日曜日除く)に分けた時間割が組まれ、全期間出席することとなっており、大多数が社会人である学生600名以上が参加し、暑く長いひと夏を三田キャンパスで過ごした。

開講科目は、教養科目として英語、数学、法学の3科目、専門科目としては、文学部は文学、歴史、哲学や社会学など10科目、経済学部は労働組合運動、計画経済論、世界経済論など7科目、法学部は民法、商法、外交史、政治史など6科目を実施している。また、講義だけでなく、複数の講演会、演劇や音楽鑑賞などの行事が行われ、締めくくりには送別茶話会が開催された。この行事の歴史は現在も引き継がれ、学部長や塾長による講演会や映画の鑑賞会、学生と教職員の意見交換会にあたる懇談会がある。

さて、スクーリングの経験は多くの学生が高等教育の意義を体感できるよい機会であったが、社会人学生にとっては職場を長期に休まねばならないのが悩みだった。これに応えるために大学は、1限の時間を延ばしたり、期間を短縮したり、年間で履修できる単位数の上限を撤廃したりと通信教育設置基準を考慮しつつ制度の改善をしてきた。その結果、2011年には1限を150分とし、日曜日を含む6日間を1期にし、1科目を1週間以内で履修できる講義体制を実現した。

夏期スクーリングは、あたりまえであるが、暑い夏に実施されている。現在、教室にエアコンがあるのは常識であるが、慶應義塾大学で教室にエアコンが普及するのは1994年頃からと遅く、当初、冷房化された教室の割合は、日吉は40%、三田は15%であった。夏期スクーリングで冷房化教室の収容定員にあわせて科目の履修者数を決めるなど、冷房化教室での受講割合を増やす工夫をしても三田では27%程度であった(「慶應通信」第557号)。窓を全開にした教室で、首に濡れたタオルをまいて、扇風機の風で講義プリントが飛んでしまわないように手でおさえながら、一生懸命授業に臨んだ時代の教員方や学生諸君に敬意を表したい。

(通信教育部)

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