【執筆ノート】
『炎上で世論はつくられる──民主主義を揺るがすメカニズム』
2026/03/18
本書を書こうと考えるようになった直接のきっかけは、2024年の選挙をめぐる一連の出来事である。SNS上での盛り上がりが、単なる話題や空気にとどまらず、実際の投票行動や選挙結果と、はっきりと結びつき始めた。切り抜き動画や断片的な情報が短時間で拡散し、事実関係や文脈が後景に追いやられていく。そうした変化が、民主主義の意思決定と直結しつつあることを、私は研究者としてだけでなく、1人の生活者として強く実感した。
そのため、編集者からの依頼を受けた時、違和感はなかった。むしろ、近年感じ続けてきた問題意識と、社会の側から投げかけられた問いが重なっていると感じた。炎上やフェイク情報をめぐる出来事は、研究テーマである以前に、社会全体が正面から向き合わざるを得ない課題だと考えていたからだ。
本書では、SNS選挙や誹謗中傷、生成AIといった具体的な事例とデータを用いて、誰もが発信者となった「人類総メディア時代」において、民主主義はどのように揺さぶられ、どこで踏みとどまれるのか、どのようによりよい社会を作っていけるのかという問いを考えたいと思った。
私は、研究者のミッションは、知見を蓄積するだけでなく、それを社会に還元し、人々がより適切に判断できる環境づくりに寄与することだと考えている。なぜ問題が起き、どのように拡散し、人々の行動に影響するのかを言語化しなければ、社会は同じ場所で足踏みを続けてしまう。その意味で、この問いを新書という形で読者と共有できたことに感謝している。
炎上や分断は、政治やネット空間のどこかで起きている特別な出来事ではなく、私たちの日常の延長線上にある。SNSを使う1人ひとりの振る舞いが、社会の空気を形づくり、その積み重ねが、世論や選挙のあり方を左右している。
民主主義は完成された制度ではなく、常に揺れながら更新されるプロセスである。強い言葉や刺激的な情報に触れたとき、どう立ち止まり、情報と向き合うのか。その選択の積み重ねが、民主主義の姿を決めていく。本書が、そのことを考えるための1つの材料となれば幸いである。
『炎上で世論はつくられる──民主主義を揺るがすメカニズム』
山口 真一
ちくま新書
208頁、990円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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山口 真一(やまぐち しんいち)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授・塾員