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【執筆ノート】
『水の事故から命を守る──安全水泳大全』

2026/02/24

  • 藤本 秀樹(ふじもと ひでき)

    慶應義塾幼稚舎教諭

慶應義塾には、小泉信三先生が唱えた「塾生皆泳」という言葉があり、「泳ぐ技能を身につけることが、人として備えるべき重要な素養のひとつである」という水泳の教育理念があります。塾生は、泳げないことが理由で両親から授かった大切な命を落としたり、溺れている人を救えないことがないように、というのがその教えです。

公益財団法人日本水泳連盟は、戦前より「水泳の普及に努め、国民皆泳を実現し、人々の健康保持・増進と水難事故予防に貢献する」として、「国民皆泳」を掲げています。しかしながら、我が国の水泳教育は、その趣旨に反したプールでの4種競泳を主眼にした水泳授業内容が継続されてきました。その結果、島国日本は、世界の国々の中でも溺水事故が大変多い国の1つであり、数年で見る溺水死者数はロシアに次いで第2位で、緩やかな上昇傾向が継続しています。

慶應義塾幼稚舎は、水難事故から人命を守るため、遠泳、プールでの1000m泳、競泳を教育に取り入れてきました。世の中に先駆けて35年前から安全水泳授業「着衣水泳」「水難救助法」を先導してきたものの、水難事故防止には至りませんでした。したがって、安全水泳については、誰もがどこでも公平に正しく身に付けられるように、知識・技術・ケーススタディなどを体系的に書籍にまとめました。また、その中には、動作を解説する動画の2次元コードでのリンクを掲載する先進的な取り組みも実践しています。

近年は、気候変動によって、全世界の災害発生のリスクが高まってきています。世界の水難事故や災害から命を守るため、「安全水泳」の発展に資するべく、今回はそれぞれのエキスパートが英知を結集すると共に「英訳版」「中国訳版」の刊行に向けて動いているところです。このように、世界的な課題に対する備えと対策について、全社会の先導者として「慶應義塾の安全水泳の取り組み」に、取り組んだ書籍であることを是非とも知っていただきたい。近未来に向けて、本書が体系化した内容から得られる「命の尊厳」に関わる知見を、全世界に発信していきます。ぜひ本書を手に取っていただき、ご一読いただければ幸いです。

『水の事故から命を守る──安全水泳大全』
藤本 秀樹
東洋館出版社
242頁、2,310円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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