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【執筆ノート】
『世界秩序──グローバル化の夢と挫折』

2026/01/13

  • 田所 昌幸(たどころ まさゆき)

    慶應義塾大学名誉教授、国際大学大学院国際関係学研究科特任教授

「いつの間にか歳(とし)をとってしまった。」本書の「おわりに」で、私はこう書いた。

今の学生にとっては、「冷戦後」は私の世代の「戦後」くらいの感覚ではないだろうか。だがその「冷戦後」の時代は今や終わり、次の局面に歴史は移りつつある。

冷戦後の世界をあえて一言で表すとすれば、「グローバル化の時代」ではないだろうか。モノや資本情報、それにヒトも国境を越えて自由に移動するのは、時代の趨勢なのだから、領土をめぐって主要国が軍事力を行使することなど、時代遅れだというのが、広く共有された常識だった。

しかしロシアはウクライナに侵攻し、アメリカは露骨な保護主義政策を打ち出すようになった。日本周辺でも中国の台湾への軍事的威嚇は強まる一方で、日本もそれと無縁でいられるはずはない。

グローバル化の夢は挫折したが、それはなぜなのか。そしてグローバル化後はどんな世界になるのか。この本では私なりに過去のグローバル化の挫折の歴史を振り返りつつ、今後のありうべき世界秩序像を4つに分類して提示してみた。

世界秩序の未来など常に未確定で、本質的に予測は不可能だ。実際これまでの未来予測の数々も、外れのオンパレードだ。それでも確かそうなこともある。どうやらこれからの日本は、戦後80年間の前提が通用しない世界に入りつつあるということだ。戦後日本の在り方は、良かれ悪しかれアメリカの覇権国、あるいは帝国としての役割と分かちがたく結びついている。

だがそのアメリカがアメリカ第一を露骨に推進し、同盟国の利益や自由や民主主義といった規範にはお構いなしにロシアや中国との取引を平気で始めるようになれば、日本人もこれまでになかった覚悟を迫られるだろう。

本書は大学生や一般読者を念頭に自分の問題意識を展開したもので、厳格な知的手続きが求められる今日の政治学の世界では、議論が大雑把すぎて相手にされないだろう。だが、この歳になると、もう誰に何を言われても平気だ。歳をとるのも悪いことばかりではない。

『世界秩序──グローバル化の夢と挫折』
田所 昌幸
中公新書
208頁、1,012円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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