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【執筆ノート】
『ガザ、戦下の人道医療援助』

2025/08/25

  • 萩原 健(はぎわら けん)

    国境なき医師団緊急対応コーディネーター・塾員

長年イスラエルにより封鎖され、天井のない監獄と言われるパレスチナ・ガザ地区。2023年10月、ハマスがイスラエルに越境攻撃をすると、イスラエルは圧倒的な軍事力でガザ地区に大規模な攻撃を開始。攻勢は弱まることなく紛争が激化。以来約1年10カ月が経とうとしている。

国際社会の仲介による停戦合意が2025年1月19日に発効されるも、3月18日、イスラエルは大規模な軍事作戦を再開する。ガザ保健省の発表によると、死者数は5万人を超えた。国際メディアによるガザ地区での取材は許可されていない。

本書は、私が国境なき医師団(MSF)の緊急対応コーディネーター(現場の活動責任者)として、2024年8月から9月にかけてガザに入って人道医療援助活動をした記録で、ガザの人々が日々直面している問題やその背景についても言及している。より多角的な視点でガザの問題点を考察し、その意味するところを具体性をもって浮かび上がらせたかったからだ。

昼夜問わず上空を飛び回り、安眠を妨害するドローン、けた違いの武力による陸海空からの攻撃、頻繁に出される退避要求に何度も移動を強いられる住民。インフラは破壊され、物資の搬入はとことん制限されている。生きるために必要なものすべてが他者の匙加減に委ねられていることは何を意味するのか。

パレスチナ問題とその歴史については、日本でも多くの研究者、ジャーナリスト、人道支援団体等々が多方面にわたって言及している。ただ、私にはそれらの解説や論考は、いま現在、現場で起きていることから遠く離れているように感じられた。このことが、今回私が書き留めなければと強く思った理由でもある。

経済学部を卒業し、石油開発業を経て人道医療援助活動に。そのMSFでの活動も17年目に入った。紛争地で突きつけられる現実は、直視するに堪えないときもある。人道とは、尊厳とは何か、常に突きつけられながら活動を続けている。

本書の記録は1年近く前のことではあるが、いまも日々流れてくるガザのニュースを現実味と具体性をもって理解する一助になるのではないかと思う。

『ガザ、戦下の人道医療援助』
萩原 健
ホーム社
260頁、2,200円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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